Forest acoustics (森林アコースティクス)   2015/11/24 18:05:14

森に住む種々の生物が用いる音響空間

夏のウグイスとセミの声(MP3)

 ヒグラシやクマゼミなどの喧騒の中に鳴くウグイスの貴重な録音です。

  ウグイスは、早春に鳴くといわれますが、実は森の中に住んでいて、春に里に下りてくるのでその頃に人家の近くで聞かれるわけです。 しかし、当地の由布岳山麓の鳥越の深い森の中では、ほぼ一年中聞かれます。 早春の雪の中で聞かれることもあり、雪が降ったからといって声も立てずというのは必ずしも当たらないようです。

  次の図-1は、夏のウグイスの声が森のサウンドスペクトラムの中でどういう位置を示すのかを明らかにした、大変貴重な解析です。 セミを主体とした森の喧騒は、4000Hz以上の区分を優占していますが、2000Hz付近にぽっかりとあいた窓のような静寂空間があり、ウグイスはその空間で特有の高低変移を持つパターンで鳴いて通信しているのです。 およそ1500Hzから3000Hzの間の特有の音程ジャンプがよくわかりますね。 最初の出だしは女性ソプラノ、ついで男性の声道共鳴領域に飛びます。 ただし、春の静寂の中と比べるとどういうわけか、上ずっていて4000Hz 付近まで一時飛んでいます。 安定点では倍数波はほとんど見られず、純粋に近い音で、聴く人にとって美しく聞こえるのはそういった周波数パターンのせいでしょう。 ヒグラシが途中で加わりますが、他のセミの喧騒とは区別できる単一のゆるい変化のあるスペクトラムで、喧騒の下限のすきまに見事フィットして存在を主張しているのがわかります。 春は、このようなセミの喧騒はなく、まさに森の音響空間はウグイスや他の鳥の独断場です。 ところで、人間の声は、3000Hz以下のスペクトラム空間で、広い帯域を用いて独特の多数の波長の音波で通信をしているわけです。 音の高さだけでなく、そのパターンも含めて、独特のスペクトラム領域を使用しているのです。 森は、帯域狭しと種々の生物が通信や状況判断に使うスペクトラム空間であり、まさに音響レーダー空間というところでしょうか。 各種生物にたいして、電波ならぬ、音波の周波数帯域を神が割り当てたかのごとくです。 この可聴周波数帯域にくるあらゆる生物の音響パターンを分析できる高い能力を持つ、この音響空間を常時分析し標的生物の種類や距離を検知し、また危険を察知したり、行動を決めたりする重要な精密音響レーダーが人間の耳なのです。 人間の耳は、数ヘルツの変化も聞き逃さないのです。 そのあるゆる生物の出す音が認知できる余裕の能力が音楽という芸術を生んだわけで、森の響きの経験が基本であると言っても過言ではないと思います。
  以下の測定の方法についてはこちらを参照

図ー1  森のセミの喧騒の中で浮かびあがる夏のウグイスの声

湯布院の森での夏のセミの喧騒にうかびあがるウグイスの声 Songs of cicadas and bush wabblers in summer

丸で囲ったパターンがウグイスの鳴き声です。  画面をクリックすると音が聞けます。 はっきりした完璧なウグイスの声が他に中央(記録開始から9秒)と終了間際(開始から16秒)の、3回があります。 他に間の何箇所か不完全なタイプが聞かれます。 開始から6秒から13秒にかけて中央のウグイスの声の中央(約2500Hz)を貫くように”横一線”の単一周波数で鳴くのがヒグラシです。 独特のソプラノ歌声のようなビブラートがかかっているのが特徴です。

比較ー秋のアオマツムシ(MP3) (音源)

 図ー2に森の夜のアオマツムシの大合唱を録音し分析しました。  Aのサウンドスペクトラムの時間変化は、驚くほど一定での単一に近い周波数ですが、大きさが周期的に変化しています。 その周波数は、Bに示したように、5100Hz D8付近に収束しています。 このスペクトグラムの時間軸を拡大すると、対称な振幅変動の周期、すなわちビブラートを持っていることがわかります。 周期は0.02秒程度で不規則にみえます。 これをさらに拡大したのが、Dで、数ミリ秒(0.00x秒)程度の周期で、大きくふくらんだりしぼんだりの周期は割に一定です。 多くの虫の個体の鳴き声が重なっているため、個々の虫の個性といえる持続時間や周波数、振れ幅の違いなどが重なって合成された結果と思われます。 周波数はかなり一定ですが、よく見るといくつかのわずかに異なる成分が合成されている様子もわかりますが、これらの微妙な違いが、本来なら不協和音になるはずが、なぜ心地よく聞こえるのか、その秘密は追って詳しく解説します。

図ー2 アオマツムシの合唱のサウンドスペクトラムと波形の拡大

湯布院の森の秋のアオマツムシの声のビブラートの美しさのサウンドスペクトル解析

<=上の画面をクリックするとアオマツムシの声が聞こえます。

秋の森の鹿の鳴き声と森の音

  音源MP3

アオマツムシの声に浮かぶ湯布院の森の夜の鹿の鳴き声と人間の男女の声のサウンドスペクトル

上の画面をクリックすると、この音源が聞けます

  ここでは、アオマツムシがずっと鳴いているのですが、この周波数は3874Hz付近で、倍数波をほとんど伴っていません。 それは、図ー2に示したように正弦波に近いことを意味します。 鹿の声は主音(一番強い音)は2594Hzで、アオマツムシの声をまたいだ5286Hzに2倍波と思われるピークが読み取れます。しかし、1497Hzにも、鹿の声の一部と思われるスペクトルがでていますし、さらにその下にもあるようです。主ピークも倍数ピークも120Hz前後の差のピークの集まりで構成されているようですので、男声の超低音と同様に基本の発振周波数は、それくらいなのかもしれません。ただし、主音の高さは、常に一定ではなく、時々で高い低いがあります。   体の大きさからいうと、人間よりも大きいので、共鳴は低いはずですが、この2500Hz付近の声は、いわゆる”いななき”に当たる声ですので、周辺にいる仲間に自分の存在を知らせたりする役割りがあり、鹿を森の中で追いかけると大抵二手にわかれて逃げ、あとで再集合のため自己の所在を知らせるというような時にたとえば使われます。 森での音の伝播からいうと、これくらいの高さが透りよいということでしょう。 人間でいうと、男声の声道共鳴に当たるものかもしれません。 鹿は、胴体は大きいけれども声道共鳴に関係する頭蓋骨の空間すなわち咽頭は意外と短いということでしょうか。 また、この種の声は、人間ではホイッスルボイスと呼ばれる口笛のような声帯振動による声質がこれに相当し音域もほぼ同じです。 この鹿の鳴き声に似たホイッスルボイスは、女性については知られていますが、ホイッスルボイスー男性の発声での貴重な観測例はこちらのデーターを参照下さい男性の発声での貴重な観測例はこちらのデーターを参照下さい。
  
   それと興味深いのは主ピークに関して言えば、アオマツムシの鳴き声(羽のすり合わせ共鳴音:3874Hz)とは見事にはずれていますね。 一方で人の話し声ですが、男女の声が聞こえますがどちらも600-800Hz付近の周波数が特有の倍音構成をともなってはっきりと記録されています。女声ー男性の順で最後はミックスしているようです。女声は400Hzの2倍波(800Hz)、男性は120Hz付近の5倍波である600Hzくらいが強く記録されています。 会話ですので、次の図にでてくる共鳴のうち、胸郭共鳴が明確に観測されています。 この共鳴パターンによってこれら動物個体や人間の体の大きさや構造を識別するわけです。 余談ですが、この周波数記録は日本語の発音の特徴(古代語の高低アクセント言語)も表しています。 ウグイスなどの鳥類、鹿、セミなどの声とヒトのホイッスルボイスの比較のデーターも参照下さい。

  鹿や虫、人はこの森の音響空間で、住み分けていること、虫や鹿、ウグイスなどの鳥などの動物は使用帯域の本数が少ないことで、一方、人間は、会話空間としては、2000Hzから50Hzくらいまでの広い範囲を占有していることです。 なんとあつかましいことか。 それにしても、同じ声帯を持つ動物仲間として、人間が森の鹿と森林音響空間をこうもうまくシェアしているということは、なにか動物の協調進化が、こういったところにもあるのかと思うと大変興味深いですね。

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  1. 録音方法

       歌集のレコーディング(録音)方法について  男声アカペラ歌唱再生に適した機器

    男声の特質シリーズ

    第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章
    1. 第1章 男声のサウンドスペクトラム的特質について
    2.  第2章 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について
    3. 第3章 男声の特質ーその2: 和声とビブラートについて
    4. 第4章 男声歌唱のオーディオ再生について
    5.  第5章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点
    6. 第6章-歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察
    7. 第7章 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係
    8. 第8章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その3:最大音量
    9.  第9章 男声の特質ー低音限界発声について
    10.  第10章ー最大音量とスペクトルの歌唱言語による違い
    11  特別章ー男声の発する可聴周波数以下の超低音は聴こえるのか? 
    12.  第12章 身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析
    13.  第13章 声帯振動と非声帯振動の比較と歌声
    14.  第14章 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 第14章補足14B

  2. 自然界の音響

    1. 夏の森のセミの喧騒の中に浮かび上がる夏のウグイスの声ーForest acoustics
    2. 春のウグイスの声と森の音響空間
    3.  地獄の唄のページ

資料室-発声実験解説や音響実験データー理論的考察の解説  声の波形とサウンドスペクトル音響データ集

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