Page Top   森の湯トップ   English Top 歌集トップ   森の音響空間 2015/11/23 7:57:08

男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章

第9章  男声の特質ー低音発声について-

 男声の特徴といえば、やっぱり低音ですね。 どのくらいの低音かというと、先の章で示したように通常はバスの声域の下限は74Hz D2くらいです。 しかし、中にはさらに低音(A1)が要求される曲もあります。 あまり低くなると、記録系の下限があり、また周波数解析がかなり困難になりますが、声帯の不連続な分割振動を使えば出せないことはないようです。 

図ー1−1  基本波が可聴周波数外の極低音の発声波形

  この領域の実音のMP3

男性による基本波が可聴周波数外の極低音の発声波形ーリアルタイムサウンドスペクトル結論は左の図-1です。 40Hzのフィルターはずして記録した、基本波の周波数解析が可能であった限界です。
   これは、基本的にビブラートの周期にあたり、不連続になります。 この実験の結果は、次の図ー2に示しました。左の図ー1は、さらに発声周波数を下げた場合の波形です。 スペクトル上では、見えにくいですが、パルス状の波形の繰り返しがみられます。 この波形の周期は0.059秒程度で16.9Hz(図ー2B)で、C0です。 もっとも周期が長い部分は、0.094秒で、10.6Hzとなり、A-1(A0(22.5HzのTオクターブ下)です。 この周波数が音楽的にどうかは別にして、次のMP3に収めてあります。カエルの鳴き声のようにも聞こえます。 しかし、可聴周波数以下のため、基本波は聞こえないとおもいますが、およそ17Hz刻みの40-50倍波の790Hz近辺のピーク集団が見られ、これの繰り返しがビブラート的に聞こえるわけです。 その基本波の50倍近くの倍数波が、ここにみられる細かい波形です。 この領域の実音のMP3

図-1-2. 基本波が可聴周波数外の極低音の発声波形

男性による基本波が可聴周波数外の極低音の発声波形ー周波数スペクトル  
周波数スペクトルを左に示しておきます。 100Hz付近のピークはノイズです。


図ー2  基本波が可聴周波数の極低音の波形

: 43Hz F1 この領域の実音のMP3

この下の図は、可聴周波数帯での低音です。 F1=43Hzです。 細かいピッチは589Hz付近13-15倍波です。
  録音の増幅率は、他のファイルと同じで特に大きくしているわけではないですが、図-1の17Hzも2の43Hzも以外に聴えると思います。  図-1の17Hzは75dB, 2の43Hzは 80dBのレベルです。
男性による基本波が可聴周波数外の極低音の発声波形ー振幅波形

図ー3  低音域と高音域の間の移動による声の変化

男性による低音(D2) から極高音(C6)の発声と声量比較 ーリアルタイムサウンドスペクトル次の図ー3に、低音域と高音域の大雑把な発声パターンをAに、その時の声量変化をC示しました。 特に大声量というわけではなく、気楽にざっとスキャンした場合です。 大きさは、開始時のC#6で85dBでバイオリンの静かな音量くらいでしょうか。 周波数(音階)がさがるにつれ声量が増大しD5-C4 で約100dBまで上がり、D#4に移動した瞬間に最大の105dBのスパイクがでています。 末尾のD2では、77dBほどの大きさで、会話程度のレベルになっていますが、スペクトルパターンは、胸郭共鳴と声道共鳴が強く現れており、歌声のパターンを示していることがわかります。 D2では、72Hzが基本波ですので、2倍波は144Hzです。これより少し高いピークが11倍波の826HzでG#6に当たります。

 男性による低音(D2) から極高音(C6)の発声と声量比較 ー声洞と胸郭の共鳴周波数この図Dで解像度を上げて分析すると、8-13倍波がまとまっているようです。 72の倍数ですので、このあたりは集合状態になっているわけで、その集合の中心がG#6ということです。 声道共鳴に当たる領域は、2660Hz付近で36-37倍波で構成されています。 2つのピークがちゃんとあって、それぞれが、35倍、36倍ということですが、実は、詳しくみると、基本波が72Hzと75Hzで構成されているようで、実際は、ピークが寄り添うように接近して2本づつの合計4本あり、これも解像度を上げてみると、それぞれが、69.1x35=2421と72.2x35=2527(D#7) 、72.7x36=2617と76.6x36=2758(F7)となっています。 かならずしも、ぴたりの一致ではないです。これは道共鳴での縮退現象にようにも解釈できますが、音源が4桁もあるような精密機械ではなく人間であるので基本波の揺らぎももちろんのこと、それ以外でも解析ソフトや分析精度のこともありますので、念のため。

  さて、この2つの極端な音階発声を比較してみると、結局、男声の超低音でも、響いているのは、結局は、ソプラノの発声周波数と同じくらいか、それよりも高い周波数の胸郭共鳴と声道共鳴であるということになります。 音圧レベルでは、会話ぐらいの大きさと申しましたが、会話に比べると高周波成分が格段に多いので、会話よりも遠くに届くとおもわれます。いわゆる”響き”の正体を見たりです。 別の言い方をすれば、男声の低音はピッチが細かいことが特徴で、低いことではないともいえるでしょう。 そのピッチの細やかさで聴覚が”勝手”に男声は低いと判断しているのではないでしょうか。 なぜなら、基本波の72Hz付近は、胸郭や声道共鳴周波数にくらべると、十分の一ぐらいの聴覚感度しか持ち合わせていないため、ほとんど聞こえていないですね。 特にホールともなれば、高音は指向性が高いので減衰少なく客席にとどきますが、低音は拡散しさらに音量が低くなるとおもわれるのでなおさらです。 iPhoneやIPレコーダーで再生するとさらに低音は出ないですよね。 

図ー4 低音発声パターンの切り換え

 さて、次は、低音での発声のパターンを見てみましょう。最後の図ですが、低音E2において、2つの発声パターンを切り替えて分析した結果です。男性による低音(E2)の発声の身体共鳴 ー声門閉鎖と声洞と胸郭の共鳴周波数 発声のパターンは、息継ぎの直後の発声冒頭はタイプ1が短く発声され、以降タイプ2とタイプ1が左から連続して約1.5秒ずつ交互にトータル約12秒間発声されています。 Aは振幅で見たものですが、どちらが大きいとはかならずしも言えない連続的なものになっています。 強いていえば、タイプ2のほうが大きめで特有のビブラートが大きいです。 Aに対応するリアルタイムサウンドスペクトラムがBです。 

 このように、低音で発声した場合、2つのパターンがあることがわかります。 ひとつは、基本波が高い場合と高次波が高い場合です。 基本波が高い場合は、ちょっと力がないが胴体に響いて出たような感じの声になります。 声帯を緩める、すなわち圧力を下げて声帯の緊張を下げるために、声道共鳴や胸郭共鳴の高次共鳴がないことが原因です。 もうひとつは、しっかりと声門閉鎖しての発声で、これは普通の歌声の感じです。 この2つを比較して気のつくとがあります。 それは、基本波が高い発声の場合は低く聞こえるとともにソプラノのように2倍波も高いですから、ある意味、低音での”裏声”にあたるものかもしれません。 

  タイプ1の周波数スペクトラムをCに、タイプ2の周波数スペクトラムをCに示しました。両タイプとも一番下の基本波(73Hz E2)と縦軸真ん中あたりの胸郭共鳴650Hz E2を中心とする胸郭共鳴および2348 D7と2593 E7からなる声道共鳴が認められます。  この両タイプの大きな違いは、基本波と2倍波の強さの比ですね。 タイプ1は基本波72Hz(E2)が2倍波144Hz(E3)よりも2倍ほど大きく、タイプ2では、逆転し2倍波のほうが3倍(対数で2倍)ほど強くなっています。 また、タイプ2では胸郭共鳴も声道共鳴も高く明瞭になっています。 タイプ2では胸郭共鳴は基本波の倍、声道共鳴は基本波と同じくらいですね。 どちらのほうが、響きがいいかというとDのタイプ2になりますが、タイプ2は低い感じの暗いイメージをもちますが、それでも歌声特徴の共鳴を持っていますので、それなりに使えるでしょう。

  こういった男声の特質を知れば、男性が裏声やらで、生物の進化の過程で獲得した自然に持っている情報伝達能力を否定して、やたら高い声で歌いたがるのは、あまり意味のないことではないでしょうかね。 さらに詳しい解析は次に:男性の発する低音から可聴周波数以下の極低音の共鳴構造

  私は、こうやっておそらく50年以上も考え続けたことの解答をようやく得ることができたように思いますね。 米国在住の際に偶然、カウンターテノールのリサイタルを数メートルの距離で真近に聴いことが印象に残りました。 実際に高い声はだせばだせるのですが、はて、それで表現するべき楽譜なり音楽があるのか、ただ高い単純な声でなら、男性が歌う必要など全くないということにはたと気がついたことが、こういった解析につながったというわけです。

   かの有名な作曲家ベートーベンの最後の作品といえば、あの交響曲第九番ですね。 第4楽章のなかばから急に雰囲気が変わり、低い管楽器の低いAの音が吹き鳴らされ、オーケストラをさしおいてバスの独唱が突然はじまります。 同じ音程であるにもかかわらず、男声特有の響きで高らかに始まる冒頭のことばは”O Freunde nicht diese tone"です。 要するに”この音でない響きを!”と”否定”して 聴衆に呼びかけ、合唱の開始を正当化するリードとしての意味の演説をほとんどアカペラで始めるのです。時折鳴るオーケストラは音程をソリストに確認するだけの意味です。 やがて、リードを取ったバスの誇らしげな呼びかけ(Freude!)に呼応して男声合唱(+アルト)が始まり、あの単純な近接した音程移動により男声の低音の明瞭な響きを存分に引き出し新たなすばらしい世界へと聴衆を誘導していきます。 実は、あの”喜びの歌”のメロディーでもって引き出したかったものは、まさにそれなのです。 そのことは、彼が歌唱からピアノやオーケストラに没頭していった結果の集大成であるということです。 これが、彼の最後の交響曲なったのは大変重要な意味深長なことではなかったのでしょうか。 この時代、こんな解析技術も理論もなかったころに彼はそれに気がついていたのです。

  一方で、男声の声域について、興味ある調査結果があります。 それは、歌声だけ聴いて、その歌手がどの声域か、すなわち、バスかバリトンかテノールかを当てるというものです。 結果は、歌手の声質よりも歌うピッチで、低いとバス、中間だとバリトン、高いとテノールと単純に判断するということでした(歌声の科学参照)。 なんだ、声域は歌う曲の音域、すなわち作曲家が音程でもって表現せんとするものだということです。 

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    6. 第6章-歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察
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