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男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章

 男声の特質 第7章  音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係

 人間の声は、図-1に示したように、共鳴区分が声帯の上部(咽頭、口腔、鼻腔)と下部(肺、胸郭、胴体)です。 しかし、これらの共鳴空間は粘液や軟組織が多く存在し、音源の停滞時間、すなわち残響は極めてすくないのが特徴です。 スピーカーでいえば、ダンピングファクターが大きく、共鳴が早かに減衰するわけです。 

図−1  生物の身体の物理学 

特に声帯下部共鳴空間である肺は、吸音材をつめたタヌキビンのようなものです。 この構造は、楽器とは全く違うものです。 バイオリンやピアノの空間に綿をゆるくつめた状態を想像してください。 それで演奏しても音量は小さく、ハーモニーのないとても音楽などとは縁のない発音体でしかありません。 バイオリンなどは、針金をこすった音しかでません。 しかし、人間の声は古代からかわらず特に男声は重層的和音構成を持っているのです。 楽器の進歩とは、それとは全く逆の方向へと進むのです。すなわち、共鳴板や空間の共振による音の拡大路線をひた走ります。 古代の楽器との比較では、そこが本質的に違うのです。 では、なぜ人間の声は、自身が響きをもちかつ音量が大きいのかです。 そのひとつの鍵は、20cmほどの小型ホルンやホイッスルに見出すことができます。 どちらも、息を、すなわち空気を吹き込んで音を発生させますが、その息を吹き込むのは、声をだすのと同じ人間です。 の2種類の楽器?の発生する音量と音質が人間の声に近いのです。 測定してみると、110-120dB ほどです。 これは、人間の声の最大音量と似通った大きな値で、バイオリンなどの弦を、先に述べたような共鳴のない状態でこすったりはじいたりしたのでは、出ない大きさです。ハーモニカも共鳴空間は小さいのに、80-90dBの音がでます。 こ 440Hzの音さを鳴らしてみるとさらによくわかりますね。 音さを手で持って鳴らしただけでは、その音はやっと聞こえるほどですが、机などの共鳴する板に接触させると、急に大きくなります。 この現象は、楽器の進歩の方向性を如実にあらわしているわけです。

  結論をいいますと、人間の声や息を吹き込み振動体を振動させる場合に、発音体が小さくとも発音効率が格段に高いことを意味します。 音は空気の振動ですから、空気の流れを直接音に変換するという、原理です。 一方で、弦や金属等の小型の振動体をたたくとかこする直接発音方式では、ほとんどの力が摩擦によって消費され、音に変換される割合すごく低いということです。 すなわち、共鳴板により共振することにより、音の発生効率をいかに上げるかが、そういった楽器の進歩のポイントとなるわけです。 すなわち、間接的に音を出すわけです。 おなじようなことが、オーディオスピーカーにもいえます。 再生システムの中で最低最悪の効率です。 構造的には、背面閉鎖型のブックシェルフ型ですね。 
  声帯は空気の圧力変化を作り出し空気の流れとともに咽頭へと送られます。 肺の空間は声帯によってふさがれた閉鎖空間であり、微細な圧力変化はパスカルの原理により肺の隅々に伝達されます。 すなわち、波動の反射ということにおいては、ダンピングされますが、圧力変化ということにおいては、肺の構造は”透明”なので声帯の振動を制限することはないわけです。 発声は、声門閉鎖によるわけですが、完全な閉鎖ではなく、約3-4Lの肺の空気が20-30秒で吐き出される程度の空気が流れ声帯とともに共振し、90-100 dBSPLにも達する音源となるわけです。 この振動には、共鳴板は必要ありません。 声帯を時事刻々通過する空気の流の体積が等価的な共鳴板に相当するため、かなりの大きさになります。 ホルンやホイッスルも同じ原理ですから、バイオリンやピアノみたいな響板がいらないのです。 ここが、ブックシェルフスピーカの背面負荷による制動(振動の抑制)とは根本的に違います。 ブックシェルフ型ですと、広い面積のスピーカ膜とバッフル板を備えている図体の割には、このレベルの音をだすには、約10Wの入力が必要です。 逆にいえば、それだけ重い構造をダンピングした(制動した)状態で振動させるから、10Wもの出力がいるのです。 自動車の運転に例えれば、アクセルとブレーキを同時に踏んでおれば、危険に際してアクセルを離せばすぐ停車するというようなもので、当然燃費は最悪です。
  さて、次にこの空気の流れに乗った振動が咽頭において共鳴することは、信号伝達的考え方によれば、共鳴というよりは、伝達関数になります。 ですから、ここでも共振はほとんど寄与せず、分割振動する声帯で発声した原音の3角パルス波形から、選別された周波数成分が相対的に強調され、また、声帯の振動にも影響を与えて増幅し人間の声として整形され口から吐き出されます。 咽頭や口の形を変えることにより、この伝達関数を変えることができ、それによって種々の周波数成分の異なる母音に整形するわけです。こう考察していくと、どこにもバイオリンのような共鳴は使われておらず、それは同時に音が通過するだけの空間であるとみなすことができます。  コイルとコンデンサーで共振させて周波数を作り出す方法が、バイオリンなどの響板を持つ、あるいは共鳴空間をもつフルートのような楽器であり、一方で、抵抗とコンデンサーだけのフルターで周波数を作り出すウイーンブリッジ回路との違いだと気がつく方がおられるでしょう。 さて、それでいよいよ課題の核心です。 では、音階移動速度との関係です。 共振という形での共鳴があると、音源の駆動を止めてもすぐには収まりません。 そのため、バイオリンやピアノでは、次の音階に移動する前に一旦音をきらないと、隣接する場合は音が重なり音の濁りが発生します。 すぐに音が切れるようにすると音自体がでなくなってします。 ところが、人間の声では、響板の共振は使われていないので、空気を送るのをやめると、厳密には、胸郭や咽頭の空気柱の共振(パイプのような共振)は少しはありますが、実質的にはすぐに音が切れるのです。 次いで、あらたな発声をすると、先の音が向こうに飛んでいく後に続いてあらたな音波がでますので、重なることが聴覚の認識速度の範囲内では原理的にないということになります。 
 

図ー2  低残響環境における高速音階移動とその限界

そこで、ここでのRoom1のように残響が20ms以下の環境で録音して、限界を探して見ましょう。 この実験では、G4付近での半音ー1音の隣接した移動を息を切ることなく連続で行いました。 残響とは音が戻ってくる現象ですから、これが20ms以下ということは、解像度が20msで解析した結果ということです。 このデーターを見ると、人間の音源感知速度が20ms以下であることがわかります。  男声中音域における高速隣接音階移動のリアルタイムサウンドスペクトル
  20ms台の移動になると、部屋の残響の影響と思われる重なりが少し出ていますので、測定限界ということになりますが、音階の移動は感知することができます。 オクターブ変化では50ms前後の速度になります(図-3)。 人間の声帯は、不随意神経系である反回神経系(迷走神経系の分岐)により通過空気圧を鋭敏に感知し細かく反射制御され、それほど早くわずか1音階から半音階で振動のピッチを変えることができるということです。 さらにAの振幅とBの移動部分と照合すると、振幅も対応して運動していることがわかります。 このように、声帯を制御する神経系は、伝達経路が細胞組織レベルの自己撞着型の性質が強く、平均伝達距離が短く神経パルスが細かくて”疲れにくい”性質があり、大きな物質流と運動を伴う随意神経系にくらべると、腕や足の筋肉のような大きな仕事はできませんけど、自己完結性や反射性とその持続性にすぐれているのです。 まるで、自分とは別の生物が喉にすんでいるようです。


図ー3 高速音階跳躍

 音源ファイル:MP3  Flac

図ー3はC#4-C#5のオクターブ飛びの跳躍時間と移動スパイクの発生を示します。 注意する人がいないから、適当に声帯がどうなるかなんて考えずに、一続きの息で約8秒間飛びまわっての自然な記録の一部です。音源ファイルは、8秒間全部の記録です。ばらつきはありますが、安定発声(音階)部分では105dB前後で推移していますが、上昇において高いスパイクが出ており、110dBを瞬間的に超えているのもあります。早いほど高い傾向があります。 このスパイクの持続時間は跳躍時間とほぼ対応していて、ほぼ40-60ms程度です。下降のほうが速度は速いのですが、振幅スパイクは小さいですね。 ただ、Bにみられるように、スペクトル上のスパイクは下降のほうが大きく、周波数の時間変化が上昇よりかなり大きいことを示しています。 聴覚上はスパイクが出ていることはわからないと思いますから、記録を見てあれっと(手遅れ)思うわけです。  基本声量は、C#4では2倍波が、C#5では基本波(1倍波)が共振を起こし振幅が増幅される、同じ共鳴点付近なので、大きな違いはありません。男性のテノール高音領域でのオクターブ跳躍の声量変化と移動スパイクの発生と高速音階移動ーリアルタイムサウンドスペクトルと  

 録音環境の残響時間が長いと、前の音が消えるまえに跳躍が完了してしまうため、音が重なり、不明瞭になります。 これらの結果から、人体の音源としてのダンピングは相当利いていることがよくわかりますね。 振幅の急激な増減でも、声帯振動はそれを半値幅とすると、20ms以下の速さで戻っていることになります。 もちろん、不随意神経系での反射制御ですので、勝手にそうなっているわけで特に意識したわけでもないです。 音程の安定性はビブラートを平均すれば、数ヘルツ以下です。
  それと、もうひとつ特記すべきことは、胸郭共鳴周波数と声道共鳴周波数は不変であり、上下しているのは、基本周波数であることです。 上一直線に、あるいは高いほうのC#の線が一直線に見えるのはそのためです。

図ー4  歌唱における残響の影響

一方で、同じ実験を、残鏡時間が0.2秒(200ms)である本サイトのRoom2でやってみると、あきらかに2つの隣接する音程のうち後のほうに前の残響が入り込んでいるのがわかります。 これは、バイオリンに典型的に見られます。 このような、残響のある部屋での録音は、そうでないRoom1の録音とは随分違った雰囲気なります。 以下、実例に照らして説明します。 左の図-4は、実際の歌唱における部屋の残響の影響です。 
歌は、このサイトにもあります旅愁です: 1. Room1  2. Room2  


図のAが、Room1の場合のサウンドスペクトラム、BがRoom2で、同じ歌の同じ部分を取り出して比較したものです。 振幅記録は、それぞれ、C(Room1)とD(Room2)に示しておきました。 A,Bを比較すると、0.2秒の赤バーの時間が残響時間に相当し、その残響が次の音階に入り込んでつながっているのがわかります。Room1(A、C)では、人体の共鳴が主に聞こえますが、声はすぐに切れますし、音階移動でも次の音階にすーっと移動します。。 Room2(B, D)では、声が切れたあとに響きが残っている(約0.2秒)とともに、次の音が続いている場合はそれと重なって雰囲気を変えています。 最初の息継ぎから次の息継ぎまで、6.2秒ですが、間に切れ目があるのは、子音および、中央のは情感のための息継ぎなしのフレーズ間のギャップです。 歌詞はちなみに”FふーKけYゆKくーー あーKきのYよー・・・”(子音はアルファベットで示した)です。  スペクトラム上では、残響によって0.23秒の自然ビブラートが音の重なりで不明瞭になっていることもわかると思います。 その一方で、CとDを比較すると、Dのほうが振幅ビブラートが不規則に大きくなったり小さくなったりしていますね。 これは、いわゆる”エコー”の効果ですね。  その部屋の残響が人体の共鳴自体や発生するビブラートと干渉しあい一体化して、ピッチが上がったようになるとともに、より繊細なファジイな感じになって、うまく使えば”表現力が向上”することもわかると思います。 マツムシの声などにみられるファジイなビブラートです。 このように、ちょっとした残響があるだけで音楽とは、こんなにかわるんだということ、ホールは楽器といえます。

  最後に、ドイツ語の歌(菩提樹)を低残響室(Room 1)でレコーディングし、人工的に中ホールぐらいの残響(エコー)を掛けた場合を示します。 1. 原音(MP3  HiRes)     2.人工エコー (MP3  HiRes)  熟成効果が大きいですね。 ドイツ語の子音の多さは、残響の多い生活環境に適応していることがわかると思います。

  1. 録音方法   歌集のレコーディング(録音)方法について   男声アカペラ歌唱再生に適した機器

  2. 男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章
    1. 第1章 男声のサウンドスペクトラム的特質について
    2.  第2章 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について
    3. 第3章 男声の特質ーその2: 和声とビブラートについて
    4. 第4章 男声歌唱のオーディオ再生について
    5.  第5章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点
    6. 第6章-歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察
    7. 第7章 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係
    8. 第8章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その3:最大音量
    9.  第9章 男声の特質ー低音限界発声について
    10.  第10章ー最大音量とスペクトルの歌唱言語による違い
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    11.  特別章ー男声の発する可聴周波数以下の超低音は聴こえるのか?
    12.  第12章 身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析  
    13.  第13章 声帯振動と非声帯振動の比較と歌声
    14.  第14章 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 14Bバスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算

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