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森の湯トップ   English Top  歌集トップ   森の音響空間

男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章

男声の特質-第6章-歌唱発声における物理的・身体的要因ー進化論的考察

 この章では、ちょっと趣向を変えて、男声の特質というよりは、生物の進化という観点から人間の声の特質(男女問わず)について書きます。  まず、声とは人間が発する自然音の一種であり、空気の振動です。 この空気振動は、音の伝わる早さと音速は、呼気は体温とすると37度Cですので、353.7m/秒となります。 そこで、この音速を用いて、声帯振動が共鳴する主要な体腔での共鳴周波数と物理的な有効長を計算してみると、次のようになります。 もちろん個人差がありますが、おそらくプラスマイナス10%程度の変動だと考えられます。 発声は体腔共鳴と共役してますので、他の身体的要素は、頭蓋骨(脳の容積ではなく、空洞の容積)や胴体の大きさや長さ(肺や気管のサイズ)で、足の長さは無関係ですので、身長だけでは、声が低いか高いか、響きはどうかなんて予測は困難です。 一般的にいうと、共鳴空間が大きいほど物理の法則により、振動の種類も増えて声は良く響くことになりますから、同じ身長なら共鳴に関係のない足の長さは、長いほど(ざっといえば胴体・頸+頭部=身長ー足長)マイナス要因といえます。 ただ、骨を通して伝わる骨振動というのがあって、およそ1000Hzくらいで、音階練習の際に存在を認識することがあります。 実際に体の振動をマイクロフォンが拾っているわけです。 歌唱の場合、足などの骨が振動するのを感じますが、これが足の裏を介してステージに伝わり、響くのかどうかはよくわかりませんが、床が振動することは確かのようです。 余談ですが、発声中に歯が欠けて口から飛び出したことが何回かあり奥歯が一本なくなってますから、骨振動は強い共振性があるのだろうなと思います。 このような身体の構造とサイズは、現代人が確立した数十万年前から基本的に変化はないということは、声楽を理解するうえで非常に重要なことですが、近代のわずか200年ほどの間の著しい楽器の進歩すなわち器楽の進歩に目を奪われて、生物が出す古代から変わらない音としての観点が完全に見逃されていると言って過言ではないといえうます。 

  声を出す器官は声帯ですが、進化上のもともとの重要な機能は、喉頭蓋とともに気管上部の速やかな閉塞です。 咽頭蓋は主に飲食時に機能するのに対して 呼吸をしているときでは喉頭蓋より肺側にある声帯が使われます。 また、飲食時でも声帯を閉じると気管への異物の流入は声帯によって最終的に阻止されます。 そのため、声帯の閉鎖が十分出来ない場合、肺に菌や異物が落ちて肺炎になりやすいことになります。 また、唇とか軟口蓋のように振動させることもできるので、音を出す器官としても進化してきました。 振動としては、バイオリンとか笛のような共鳴振動のような正弦波ではなく、明確な基本周波数をもつパルス性の膜振動を発生します。 そのため、その音源が、口頭から発せられるまでの音波の伝播経路の伝達関数により、倍数波の強調や抑圧など種々の波形変形が起こります。  アルゴンガスを含む空気を吸い込んで発声すると、いわゆる”アヒル声”になるのは、この音速が大きくなり、このガスが満たされた身体空間の共鳴も含めた伝達関数の周波数が上昇して、勝手に声のピッチが上がるからです。 この基本周波数は声帯の筋肉により可変・調整され、伝達関数は、咽頭や口腔の形を変化させることと、身体の共鳴部分との相互作用により変化させることができます。 生まれたての新生児の場合は、440Hz A4の音を基本波とした声で、性別はおろか、ほとんど誰か区別することはできません。 成長にともない、種々の身体的・精神的変化の結果、基本波の発生周波数範囲や倍数波の組成とそれらの物理量のコントロールにに個人差、性差が生じ、それらが聴覚によって区別・認識されるようになります。


図ー1 重力負荷と発声器官の構造

生物が地球の物理的要素にいかに適応進化してきたかの例を重力と大気圧(振動)に関する紹介図ですが、ここで、No1がないのは、これは大気圧ー重力系の話で、たとえば血圧ですが、ここではふれません。 重力と声は何の関係があるのかというと、重力は大気圧を生み出し音源の基本環境を提供していることもありますが、人間は他の動物と異なる直立歩行であることが関係しています。

人類の進化と声の進化

左の図-1-1は、人間が2足歩行をする際に飛躍的に増大する関節の重力負荷に適応するために必要な特別の遺伝子の進化を示します。 この遺伝子の機能が低下すると変形関節症を発症する原因になります。この図に示したように、この遺伝子はやはり高いレベルの重力負荷/衝撃を受ける鳥類でも同様に進化しています。
3.振動ー音声、聴覚: 発声の際の振動体器官である声帯の位置と共鳴空間の解剖学的模式図と、歌声を発した場合のリアルタイムサウンドスペクトルを男女について典型例を示しています:L1, 声洞(喉頭・咽頭空間); L2, 胸郭内空間(気管、気管支、肺)および声帯の模式的位置を示すとともに、それらの空間(空洞)が対応するサウンドスペクトルに観測されている共鳴成分に対して矢印をスペクトル上に延長して示しています。 
 発声学/法で声道共鳴という言葉が使われますが、これが想定している声道(口頭から声帯の空間)とは同じではありません。 ここで示した声道は、声帯から咽頭上部(軟口蓋が上がっている場合はその位置)までの閉鎖空間型共鳴空間で、本来は”声洞”と呼ぶべきものです。 歌声での母音の発声の場合は、軟口蓋が上がっている場合が多いので、大抵その位置までになります。 ハミングや話声とか子音や一部の母音の発声の場合などは鼻腔の共鳴も使われます。 従来の声道の考え方(声帯から口まで)では、口は開口しているため振動体(声帯)の発する音波の進行方向には経路は曲がってはいるものの明確な反射壁がなく、”声道”が想定する”終端”は、口であって、これは、振動理論でいう固定端にはなりえないですね。 ですから、従来の”声道論”では閉鎖空間型(両端固定振動)倍数波が発生する共鳴構造の説明が困難です。 一方、解剖学的には、声帯はスピーカのような固定膜型振動体になりますので、分割振動などで倍数波が正確に発生します。  第7章および非声帯振動体による音源との比較の章(第13章)等も参照して下さい。

 Short Horn, a Toy. ショートホルン

ここに示した写真は、息の空気流を直接振動させる声帯振動に似た音を出すおもちゃですが、簡単なモデルと考えていいと思います。 詳しい説明は第13章に掲載しています。

 

   この図-1の3にある発声構造の模式図において、発声に関係する筋肉は、随意筋では姿勢の維持に重要な背筋や体側の筋肉が重要で、一般にいわれているような腹筋の重要度は低いですね。 背筋や体側、肋骨の筋肉が重要です。肺を膨らませた状態で息を止め、重力に抗して支える必要があるわけです。 胴体の半分ほどの大きな容積をもつ肺や肋骨の重量は馬鹿になりません。 重い頭部をささえながら、それに頸から頭のほうにかけて質量の小刻みで早い内転的運動を行う必要もあります。 身体外に対して大きな仕事をしないために、見過ごされ勝ちです。 体育で激しい動きをするときは、息をとめて安定を保ったりするのですが、声を出す場合は、そうはいきません。よりかかるものがなく、宙ぶらりんな状態での内転力のバランスをとれねばならないわけですから、歌うとなると結構大変な負荷になるわけです。 たとえば、運動神経を自慢する方に、鉄棒しながら歌いなさいといったらできるでしょうか。 走りながら歌えますか。 バーベルを上げたり、腕立て伏せをするとき、口をあけてやってみてください。 口を大きくあけて息をとめようとすると、声帯が気管閉鎖するので咽頭に力が入り、ものすごくしんどくなります。 まして、歌声の発声のときのように喉の奥をひろげたら、運動どころではないですね。 

  

 すなわち、声をだす、歌うということは、声帯や咽頭、横隔膜やその他の胴体の筋肉を総動員しての内転性の集中作業であり、通常の運動とは全く違うのです。 話し声は、1秒間に数回の間歇的に声帯から発声し、その前後に息の通過による子音の発声があります。 歌声は、基本的には、肺に空気をためかつ喉頭を開けた状態で、声帯によって息を止める、または吐息を制限することによって声帯を振動させ発生します。 ですから、母音の発声持続時間が極端に長く、30秒から1分にもおよぶこともあります。  そして、肝心の声帯関係の筋肉は迷走神経の分枝である反回神経という内臓系の不随意神経系がつかさどっているので、どうしていいかわからないということになります。 これには、直立姿勢か背筋を伸ばして椅子に座った体勢が一番いいわけです。 その姿勢で声帯や咽頭周辺の動作に神経を集中することができます。ただ例外があります。 普通に歩いているときや自転車をこいでいるときなどでは、定常的に発声することができ、容易というかより良く歌うことができるのは不思議ですね。 おそらく、体の重心の3次元的移動速度とその制御系とか、呼吸の要求量などとの関係があるのだろうと思います。 それと、もうひとつ念頭に置いておく必要のあることは、声帯振動は、小さな振動膜による空気流の振動への直接変換、すなわち直接音波に変換される流体力学的振動だということです。 弦楽器の響板のような面積の広い振動板による、振動体の振動の間接的変換ではないという物理的特性です。 この図に隣接した小さな写真は、小型のおもちゃのホルンです。 これはスイス土産のおもちゃですが、実は声帯が直接発する音の要素をもっていて、形も喉頭から口の開口部のようで、サイズも20cm程度と、よくにています。 これを吹くと、非共鳴性の3角パルス的な大きな音がでます。 声帯のように、閉まったリードに強制通気することによる空気流の音波への直接変換です。音階は変えられず、この品の場合は、605Hz D5で人間の胸郭共鳴値(後述)に近く調律されているのは、偶然でしょうか。 音質的には、オーケストラの楽器でいえば、音程は変えられますけれども音質はオーボエかクラリネットに似ているようです。 図ー1にあるようなダンピングの強い共鳴空間をつければ人間の声を真似ることができる計算になります。 このような身体の共鳴空間の物理的解析モデルに関する詳しい解説は第14章補足14Bにあります。   

   人間は、猿とも違い、完全な2足歩行の動物で、重い頭をもち、声帯のある頸を圧迫し、それでもって肺からの吐息の圧力に対して、頭が重しとなって、声帯に安定した圧力をかける体型構造になっていることが重要です。  他の哺乳動物を観察していても、下を向いている姿勢の動物が多く、これは餌探しに適応しているわけだけれども、下と向いた姿勢では、イノシシなどブーブー言うだけですが、高い声をだすときは上方を向く傾向があります。 鹿や馬などのいななきが典型的な例です。 腹に力をいれて、といいますが、実は、先に背筋がそりかえって体を弓なりにして、ひっくりかえらないように姿勢を保つ筋肉群をフルに使って上方に重い頭(人間の頭は本当に重いんです)をむけており、まさに遠くに声を”投げて”からボールを投げているわけです。 そういう観点では、人間も同じで、向こうのほうにボールをなげるとき、顔を上方に向け、”おーいいくぞ!”などというときは、まさに、声帯を思いっきり震わせて”いなないている”わけです。 その声を廊下などの響きのあるところで聞いてみると、ビブラートがかかっていることがわかると思います。 アルプスのヨーデルは典型ですね。 人間も、多くの哺乳動物と同じように、大きな声をだそう=遠くに呼びかけようとすれば、自然に”いななく”のです。 それが、歌声の本質だと思っていただければ、この章の役割りは半分以上終わりです。 実は、歌手になる重要な条件は、というと、声の大きさ=声量であるといわれるのも納得ですね。 いかに大声で”いななく”かです。 次に森の野生の鹿のいななきのサウンドスペクトラムを示します。 鹿の鳴き声は、この図で3箇所あります。 まず、遠くの鹿の声が冒頭1.3秒後に聞こえ、15秒後に近くで聴こえ、その直後に男女の外での話声が聞こえます。 そのあともう一度同じくらいの距離で鹿が鳴いで(同一個体かはわからない)人の話声と重なっています。  これでもわかるように、人間では男女の違いがかくもわかるもので、これも男性が声変わりで基本音が下がり複雑化するからで、ピッチの高さ(声の周波数)の問題ではないことは重要なことです。 後段で述べますけれども、男性の話声に強く見られる胴体共鳴周波数は、男声の調律点とよばれるほど重要な意味があります。 解剖生理学的には、声帯は性徴器官に分類されます。 結局は、そのパターンによって性成熟した男女の識別するのが主目的ですから、この声変わりを伴う成熟した異性識別の進化も森と関係が深いのではないでしょうか。


図ー2  森の中の野生の鹿の鳴き声と人(男女)の話し声 実音(MP3はこちら)

アオマツムシの合唱に浮かび上がる森の鹿の鳴き声と人間の男女の声のサウンドスペクトル

  ここでは、アオマツムシがずっと鳴いているのですが、この周波数は3874Hz付近で、倍数波をほとんど伴っていません。それは、図ー2に示したように正弦波に近いことを意味します。 鹿の声は主音(一番強い音)は2594Hzで、アオマツムシの声をまたいだ5286Hzに2倍波と思われるピークが読み取れます。 しかし、1497Hzにも、鹿の声の一部と思われるスペクトルがでていますし、さらにその下にもあるようです。主ピークも倍数ピークも120Hz前後の差のピークの集まりで構成されているようですので、男声の超低音と同様に基本の発振周波数は、それくらいなのかもしれません。 体の大きさからいうと、人間よりも大きいので、共鳴は低いはずですが、この2500Hz付近の声は、いわゆる”いななき”に当たる声ですので、周辺にいる仲間に自分の存在を知らせたりする役割りがあり、鹿を森の中で追いかけると大抵二手にわかれて逃げ、あとで再集合のため自己の所在を知らせるというような時にたとえば使われます。 森での音の伝播からいうと、これくらいの高さが透りよいということでしょう。 人間でいうと、男声の声道共鳴に当たるものかもしれません。 鹿は、胴体は大きいけれども声道共鳴に関係する頭蓋骨の空間すなわち咽頭(図-1-2)は意外と短いということでしょうか。 人間の頭蓋骨は体に比べて大きく、その中で口蓋は小さいですが、咽頭から口腔にあたる共鳴空洞はかなり大きく、意外と脳みその入るところは小さいですから、鹿と同じくらいの声道共鳴であっても不思議ではないですね。 人間の見かけでいう、頭の大きい小さいは、この空洞の大きさと考えていいですね。 鹿の頭蓋骨は大きいように見えますが、そのうちで口蓋の長さがかなりありますし、口が喉より大きく開くように横にさけてますので、共鳴にはあまり寄与しないでしょう。 時間があったら鹿の解剖学を勉強して比較検証してみます。  そこで人の話し声ですが、男女の声が聞こえますがどちらも600-800Hz付近の周波数が特有の倍音構成をともなってはっきりと記録されています。女声ー男性の順で最後はミックスしているようです。女声は400Hzの2倍波(800Hz)、男性は120Hz付近の5倍波である600Hzくらいが強く記録されています。 会話ですので、次の図にでてくる共鳴のうち、胸郭共鳴が明確に観測されています。 この共鳴パターンによってこれら動物個体や人間の体の大きさや構造を識別するわけです。 余談ですが、この周波数記録は日本語の発音の特徴(古代語の高低アクセント言語)も表しています。 これらの詳しい解析は、後日、自然雑音の章で書く予定です。 ここで、抑えておきたいのは、鹿や虫、人はこの森の音響空間で、住み分けていること、虫や鹿、ウグイスなどの鳥などの動物は使用帯域の本数が少ないことで、一方、人間は、会話空間としては、2000Hzから50Hzくらいまでの広い範囲を占有していることです。 なんとあつかましいことか。 それにしても、同じ声帯を持つ動物仲間として、人間が森の鹿と森林音響空間をこうもうまくシェアしているということは、なにか動物の協調進化が、こういったところにもあるのかと思うと大変興味深いですね。

図ー3 男性の広帯域自由発声による声のパターンの変化と身体共鳴の関係

   この下の図-3は、中程度の強さで歌唱発声をしながら、音階をいろいろな範囲で広く移動したときのリアルタイム音響スペクトルです。 途中5-10秒ごとに息継ぎをしながらの、およそ50秒間の音階や声質などの音楽的要素を気にしない自由発声の全体像です。  周波数帯域は、下はおよそ40Hz (E1) 上は、およそ1020Hz (C6)の範囲です。 これからはっきりわかることは、何本かの定規でひいたような横一線の線があるということがまず目につくと思います。 それは、7600Hz付近(BR)、3000Hz付近(VDR1)、そして6000Hz付近(VDR2)ですね。 次に目立つのは、倍数波が抜けている領域が、中ー高音では下側(低周波数側)、低音から極低音領域では、上側の700Hzと3000Hzの間です。  一方で、この図の下側の振幅変化の図と照合しますと、声量の大きい音域と小さい音域に分かれていることもわかります。 さらに同じようなパターンに見える中間の音域でも声量が、上昇あるいは下降の音階列それぞれに高->低ー>高となる音域があることも特徴的です。  そこで、この結果をもう少し整理してみると、D5以上の音域1、D5-A2くらいの音域2、およびA2以下の音域にパターンを分類できます。 すなわち、音域2は、VDR1とBRの2つが顕著でありますが、音域1はBRが全くみられず、VDR1もはっきりしませんが、VDR2が高くなっています。  音域1にBRがないのは、それより上の周波数であることに他なりませんが、見事に抜けているのに驚きます。 音域3では、全体の音量が下がるので、わかりにくいかもしれませんが、VDR1はそこそこありますが、顕著なのはBRとVDR1の間に高次波(倍数波がほとんどみられず、中抜けした状態であることが大きな特徴ですね。 その音域3のなかでさらにF1とかそれ以下までさげてもBRとVDR1が残るので、わかりにくいですが、人間の声が出ていることが証明できるわけです。F1くらいになるとその基本波は45Hz 以下となるため、増幅装置やマイク、スピーカーなどの限界になってきますので、充分に拾えていなくても、BRやVDRを見るとわかるわけです。

男性の広帯域自由発声による声のパターンの変化と身体共鳴の関係のサウンドスペクトル

 ここでいうVDR1やBRの正体はなにかということになります。 これは、これまでの章でも述べてきましたが、図-1の3の図のように、VDR1が声道の共鳴で、声帯と咽頭の奥の天井までの空間、BRが胴体、特に胸郭の共鳴で、男声歌手に顕著なため、その共鳴周波数が歌唱のピッチの中心的要素であり、しかも個人の”物理定数”ですので、調律点ともよばれます。 これは、男性は、歌うときは絶対音階を使っていることを意味します。 このBRを中心とした音程の配分を変えると違ったように聴こえます。 すなわち、BR(BR1)を起点として、その上下に配分する音程すなわち調を変えると歌唱が違って聴こえてきます。 女声にはそれがあまりないので、ピアノと同じように比較的自由に調を移動できるわけで、 それで、男性のほうが相対音階が苦手なのだと思います。   VDR2はVDR1の倍数の共鳴で、もし両端閉鎖振動の場合は1波長共振になります。 BR1についても同様に半波長共振に当たります。 先に述べた音速を用いますと、350m/sとし、VDR1を2700Hzすれば、音速を繰り返し数(共振周波数)で割ると、VDR1の場合、12cm(半波長)となり、共鳴空間のサイズを表す1波長共振は2倍のVDR2に当たり、長さに直すと、6cmとなり、これが丁度声帯から咽頭の天井までのサイズと合致するようです。, BRの場合、1波長が1200Hzの波長、29cmに当たりますから、これが声帯から下の胸郭長(横隔膜までの距離)とおよそ一致します。 良く見ると、音域3の低音域(例えばE2)では、VDR1は2400Hzくらいですので、これで計算すると一波長は7.4cmとなります。 BRは逆に高めで744Hzほどですので、24cmとなります。
音域2でのBR1は600Hz程度ですので、29.4cmとなります。 胸郭共鳴より上の音域1では、VDR2が5400Hzくらにでますから、音域2のVDR2の長さ、6cmは変化があまりないようです。 このように、発声領域によって、これら共鳴点は一定ではなく、音域ごとに変化しているとみられます。 これが身体要素の実際の長さを表しているならば、図ー1-2の模式図にある声帯の相対位置が、胸郭からの圧力や咽頭や顎からの圧力により微妙に変化していることを意味します。 低音を出そうとすると、胸郭は広げ容積を大きくしますが、意外と横隔膜は上に上げますので、BRが小さくなり、共鳴周波数が上がるというのは合理的ですね。 一方で、声帯は顎の力で下に下がるようですので、声道の長さは増大し、VDR1が下がるのも当然でしょう。 さらに低い低音となると喉全体を広げて容積を大きくしようとするので、それでもVDR1は下がるでしょう。 その時、それに対抗するため胸郭はさらに上がりますので、声帯から下の空間は短くなり、BRが上がるという説明も納得できそうです。 実際、正確な計測は一人ではし難いのですが、少なくともいえることは、この実験は、同一人物の共鳴空間定数に依存する実験であることです。 複数の種々の音域の歌手を集めて、この解析をした場合、発声法の違いや体格の違い、声帯の制御や性質などで、共鳴定数以外の問題で個人差が生じる問題がありますが、ここではその心配は無用で、確実で安上がりな実験といえるでしょう。 あるとすれば、この人物の発声が他とは異なる可能性ですが、それはないと思います。 言葉も歌声も怒鳴り声も叫び声もなにも普通と言われていますから。

F6というように胸郭共鳴周波数は変化しますが、当然ですね。 最大の声を出そうとすると、満身力を入れるので、胸郭が縮むのでF5- G5の700-770Hzぐらいが最大共鳴声量になるようです。 男性のどやし声ではSPLで120dBを超える(ホイッスルより大きい)ことがあります。 通常の呼びかけ声”おーい”などは、高さはG4くらいで、100dB前後でしょうか。 ちょっと気張ると半音以上あがります。 上ずるといいますね。 それを超えてどなったら、一オクターブ上がるということです。  この1オクターブ上がると、800Hz付近になります。 音階では、G5からA5になります。 この周波数は、胸郭共鳴の2分の3波長共鳴付近にあたり、BR1に対して3倍波共鳴(BR3)となります。 次の共鳴が、2分の4波長で、1200Hzから1500Hzくらいになります。 男性では、声洞共鳴の2分の1共振と重なります。 これらは身体的共鳴なので、個人差はあるにしても、生物種が決まればその範囲が決まってきて、 これが通常の歌声の男女共通の上限に当たるのは偶然とはいえないですね。 また、骨格の共鳴域に近く、聴覚でも感度が最大に近づく音程になります。  共鳴域からはずれた低音で怒鳴ると声帯が破れる可能性が高いですね。 この当たりのことは、後日データーを整理した上で掲載します。 

  次の図ー4に示したのは、G#2-D5#までの音階のステップ移動におけるリアルタイムサウンドスペクトルです。ここでは、”*”で示した”Breath(息継ぎ)"の周波数構成にまず注目して下さい。 息継ぎは、みなさん単なる意味のない雑音だと思われているかもしれません。 しかし、周波数分析してみると、このようにきわめて明瞭な独特のパターンがあることがわかります。 その構成周波数の主要なものは600Hz, 1400Hz 1800、 2700Hz 4176Hz 4554Hzが目立つ成分です。 それらの中で、少し幅はありますが、600Hz付近(BR1)と1400Hz付近(BR2)の2つの示すラインを注目して下さい。 この実験では、できるだけ正確に音程を上下させています。 まず、ここでの最低音階のG#2(106Hz)の5倍波(530Hz)と6倍波(636Hz)がおよそこのBR1のあたりに来ています。これは、先に述べました胸郭共鳴BR1のことです。 音階をできるだけ正確に、相対音階でドミソドの間隔(G#2-C3-D#3-G#3-C4-D#4-G#4-C5-D#5:絶対位置は高め=開始106Hz、終了110Hz)で次第に上げていきますと、 BR1とマークしたラインに常に強い倍数波が立っているのも、すでに述べたとおりですが、左端から3秒後の約0.5秒間の大きな息継ぎにある最大のバンドの位置に相当する倍数波のピークは、412Hz G#4の3倍波と4倍波の間の1468Hzの小さなピークとして現れいます。1倍波と2倍波の間には、635Hz D#5にはBR1に相当するピークがうっすらと認識できます。 図ー4下の添え図(G#4の倍音構成)を見て下さい。

図-4  胸郭共鳴波の構成と発声の進行に伴う変化

 (音源MP3

男性の広帯域自由発声による声のパターンの変化と身体共鳴の関係のサウンドスペクトル男性の広帯域自由発声による高音発声と身体共鳴の倍数波解析

  この図―4のリアルタイムサウンドスペクトルは、左からG#4、BR1、2x、3x、BR2, 4x、5X、6xと順次示しています。 6xが2472HzでVDR1の共鳴にもっとも近い倍数波です。 その次の音階はC5(526Hz)です。 C5の3倍波の1578HzがBR2のやや上に来ています。 そして、このシーケンスの最後息継ぎから15秒間)の音階が次のD#5で638Hzで, 息継ぎで測定したBR1 (604Hz)より少し高いことがわかります。 1倍波がBR1と、2倍波がBR2とほぼ一致しています。

  このBR2はずっと一定かというと、そうではなく、発声が進むにつれ、上昇する傾向にあります。 これは、発声開始で声門が閉鎖されること、息を吸うときは横隔膜が一番下がった位置にくるが、発声の開始で加圧のため上昇すること、さらに発声が進行するにつれてさらに横隔膜が上昇するとともに胸郭上部を広げることなどで、共振有効長が減少すると考えればある程度は納得できそうです。特に、開始から7.2秒以後、音階の下降に入って右矢印からのBR1の上昇が目立ちますが、これは胸郭の拡張と押し上げが行われるためと思われます。  その一方で、発声開始のG#2と終了のG#2とくらべると、声道共鳴も上昇していますが、吐息の進行と圧力の維持のため自然に胸郭が上がるため声帯が多少押し上げられ開始時の同じ音程でもVDRが上昇するのかなという印象です。 この終了点で、4Hzほど上がっているのも、息が切れる寸前で、”息を搾り出す”ために胸郭がしぼんでくることに対応しています。 開始から14秒のこのシーケンス終了付近では、VDRも含めた平行移動的上昇がみられ、BR1については6倍波の位置(661Hz E5)と重なり60Hzほどの上昇です。基本波が開始より4Hz高くなっていることを考慮しても(4x6=24Hz)、身体サイズ変化による上昇があったと推察されます。なお、両端の開始低音でVDRが中音域の値(2700Hz)より低いのは、低音を出すために喉の奥を広げて声帯位置も自然に下がっているためと思われます。 ここで、わかることは、正確には2倍の関係ではありませんが、BR1とBR2はお互い、関係のある倍数波同士だろうということです。 息の音の共鳴は、開放菅の進行波型伝達関数(入射波と反射波の位相干渉)になりますので、反射共鳴(両端固定)の共振とは倍数関係が違いますので、注意が必要です。他に200Hzと1507Hzなどが認められます。 後段で説明しています。  いずれにしても、この息継ぎに現れる共鳴音は、身体の共鳴空間あるいはサイズ空間の値を代表しており、その周辺で発声共鳴が起こり、発声強度(声量)が増大すると考えて差し支えないかと思います。 特に上昇音階では、共鳴点を越えるごとに発声強度の基礎レベルが不連続的に上がっていることも観察されます。 ここでは、1.D3以下(Low)、2.D3-D4 (medium), 3.D4-D5 (high)の3つの区間におおぬね分類されます。 これより広い範囲については、他章を参照して下さい。 また、この声量極大における波形は、他の場所に比べると1-2倍波が優勢で、やや正弦波に近い波形になっていることも、共鳴現象の存在が推察されます。  この一連の領域(図ー4)の音源ファイルも参照できます(約18秒間)。 他の記録と同様、残響がほとんどない部屋でマイクロフォンから約50cmはなれた点での生の発声記録であることに留意してください。 最大発声レベル(ピーク)は115dBの約50%(108dB)です。 

  この息継ぎ共鳴音は、身近な例でいえば、井戸のパイプを叩くと井戸水の水位によって音が変わる(共鳴が変わる)とか、掃除機の吸い込み音が掃除機のチューブの長さに関係するなどがあります。 ここでは、ほぼ一定の値ですので、身体の物理サイズによると考えていいでしょう。 開放短共振とすれば、600Hzが4分の3波長共振にあたり、1400Hzは4分の5にあたります。 空間長の4分の1波長が基本となるので、基本波は200Hzということになります。 この測定では、200Hzがおそらく基本波だろうと思われます。 もうひとつの低いほうに、150Hzがあり、3倍波が450Hzとなります。 このあたりの共鳴値を持つのは、1400Hzが4分の5波長(空間長)共振と考えられ、それから割り出される共鳴有効長は31.5cmで、息継ぎの場合は声帯は開いているので、おそらく胸郭の下部(肺の共鳴有効端)から口腔の間の距離が、これに該当するはずです。 2つの近接した主たる共鳴の他にいくつかがあるのは、左右の肺のサイズとか気管支の分枝長の違いによるものかもしれません。 このあたりの解析となりますと、現在の装置での記録や解析の問題もあるし、最終的には、特定の分枝を閉鎖するなどの解剖学的手法も必要です。 さて、発声にはいりますと、声帯がほぼ閉じますので、共鳴は両端閉鎖型になるはすで、共鳴点の628Hzが空間長の2分の1共振であるとすると、28.1cmとなり確かに短くなっています。 

  声道共鳴といわれている2700Hz付近の共鳴(VDR1)については、振動体が声帯なので、反射波による共鳴を考えると声帯から喉の天井軟口蓋までの距離のはずです。 解剖学的に声道と呼ばれる声帯から口頭の開口までの距離だとすると、振動体が声帯なので、声帯から発射された音波に対して反射壁がないですし、共鳴の倍数性から見ても該当しないようです。 反射壁の片方が複雑な力が働く剛性の低い膜状振動体(声帯)なので、剛性の高い弦の自由振動とはちょっと事情がことなり、この実験のように倍の5400Hz付近(VDR2)とさらに倍の1000Hz付近に倍数波が高くなりやすいですが、ここでも少しは観察されている場所はありますが、他のいろいろなケースで見ていくと(他章のチャート参照)、2分の1空間長の倍数列になっているようです。 すなわちVDR0.5とVDR1.5が存在するという意味です。 口を閉じ軟口蓋を開けるハミングとは逆に、通常の歌唱発声(母音)では、口を開け軟口蓋を閉じるので、鼻腔の長さはほとんど関係がないです。 こういったことを総合すると、VDRに相当する現象を、声帯から口先までの解剖学的声道の共鳴、と解釈するのは困難だということです。正確には、図-1-3に示したように、口はいわば拡声器の”ラッパの部分であって、共鳴器はその奥にある声帯と喉頭の天井までの長さをもつ声帯音が反響する空洞、すなわち”声洞”だとするほうが合理的であり、”声洞共鳴とよぶべきです。 歌声と話声の違いの章で改めて詳しく説明します。

  中ー高音域に顕著に見られる、約0.2秒の周期的な周波数の上下変動は、振幅変動の長周期と一致して発生している自然ビブラートで、周波数変化の山が振幅周期の山にほぼ該当します。 発声周波数が下がるとやや長くなる傾向があります。 これは、声帯が息の流れのなかで上下に揺動するからと言われています。 この周期のために、F1とかD2とかの低音を発声するとぶつぶつ切れたような発声になりますから、おそらく発声可能な最低周波数ということになります。 このビブラートによる周期的周波数変動は、半音以上に達することもありますが、不快性はなく聴覚上は事実上平均周波数(ビブラート平均)として音程知覚されます。 周期性がないと、音程変動として知覚されます。 このビブラート変動以上の早さで(例えば0.15秒)音程を移動させた場合、音程の安定点は存在しませんが、移動時間平均による音程移動として認識されます。 高速で連続して段階移動させると、階段状変化ではなく、まるで正弦波がずれていくように見えます。 0.1秒くらいが音程移動認識の限界ではないかと思います(別章参照)。

 この下の図は、図ー4の振幅を表しますが、低い方のD#4と高いほうのD#5がいずれも振幅極大で、この2箇所に共鳴点があることは、これまでに述べてきたとおりです。 それと、これまでの解析でもわかるように、これらの共鳴点と声のパターンおよび振幅の関係は、常に同じように観測され、変化していないことがわかるでしょう。 いくらトレーニングしても変わらない個人の物理定数ということです。 ただし、細かく分析すると、ある範囲で発声運動に伴う身体の変形や姿勢の変化によると思われる物理的に解釈可能な変化は起きており、トレーニングや歌唱のパーフォーマンスには当然反映されるべきものです。

    このように、共鳴周波数を丹念に分析していけば、人間の声の成り立ちを身体の物理定数として把握することができるわけです。 そして、こういった定数は、個人によって決まっており、そう簡単には変えられないので、これにとやかく言われても困って委縮してしまいます。 これでは、何のための誰のための”音楽”なのかわかりません。 要するに、個性としてこれらの特性を活用した歌唱をすることが、歌手にとっても聴衆にとっても一番大事なことです。 そうでないと、声を出すことがいやになってしまい、音楽と聴くと嫌になったりするのです。 これは、ある意味PTSDの一種であり、それに”かかってしまっている”日本人は結構多いと思います。 特に男性に多くみられるようです。音楽教育のあり方が問われているのです。 特に、一連の章で説明してきた男声の身体共鳴による”調律点”の存在についての知見を持っている先生は意外と少ないと思われ、そのことと大きな関係があるように思えます。 ここの執筆者自身、10年ほど前に自分の声のサウンドスペクトルを生まれて初めて見たとき、そしてその基本形が個人の定数として変化しないことに新鮮な大きな驚き覚えました。 実は、このことは、このサイトの論説で初めて示したわけではなく、歌唱におけるボイストレーニングを担うボイストレーナーや指揮者の意識や能力の問題として、すでに欧米では指摘されています。 その本には興味あることが書かれています: 発声訓練を受ける者にとって、声帯を上げろ下げろに始まってああしろこうしろといわれても、ほとんどが不随意神経支配であると同時に本人も見ることができない(実はトレーナーも見えてないのだが)器官の形や位置や動かし方をいわれても、どうしようもない。それで嫌になって、能力を発揮することなく歌の世界から去っていく人も多い。ボイストレーナーには2つのタイプがあって、男声か女声のどちらかしか指導できないタイプとどちらもできるタイプがある。 人間の声の特質を理解し指導できる者は、そういった細かいできもしない指示はしないし、男女問わず指導できる。 なぜなら、訓練を受ける人の声を聴き、それをどう磨いていくかという観点で指導できるだけの声の分析力と感性をもっていいるからであるー以上、”歌声の科学(ヨハン・スンドベリ著)から要約し引用。

  発声周波数は、声の大きさが小さいと低く、大きいと高くなる傾向があります。 普通に話しているときを基準にすると、演説だとか発表だとかですと、遠方を意識して息送り圧力の増大に呼応して声帯の緊張度合いが高まり声が大きくなり声のピッチも上がります。 逆に、お葬式のスピーチのような場合は、声量を落とせば、かすれることなく低くできるわけです。 女性と男性では、基本波の声のピッチが一オクターブほど違いますが、声帯の大きさや振動質量がそれに見合った大きさになっているわけではありません。 根本的な違いは、男性の場合、声帯全体を低周波数でパルス駆動して高次の分割振動をさせ情報発信力、すなわち周波数と声量を確保するのに対して女性では、声帯の一部を大きく振動させるということにあります。 低い周波数は指向性が低く、周囲にひろがり減衰しますが、周波数が高いほど指向性が増し、エネルギーが拡散しにくくなるため遠方に届きますので、結局は男女とも、主要な伝達周波数帯域は1000Hz前後ということになるわけです。 では、男女差の主たる意義はなにかというと、人間の場合は、声だけでも、成人男女や老人子供を識別できる情報能力を有しているいるわけです。 新生児にはこのような多様性はなく、440Hz A4の音ですので、新生児段階では”里親”しやすい、あるいはとにかくだれか世話してという生物学的反射にも使われるようです。 成長するに従い、声域や声質の幅がひろがり、すききらいの要因になってくるので、なんとも合理的にできているようです。 このように、聴覚や体格要因と連動して発声機能も人間に最適化されていることがわかりますね。

   実際に胸郭の縦の位置を測ってみると、背筋を緊張した状態(吐息体勢)で息を最大に吸って横隔膜を上げ圧力をかけた歌唱開始時は28cmで、ちじめると25cmくらいにできるようです。 ただ、息をいっぱいに吸った状態では、肺から押し上げられて、圧力増大に抗して気道を閉鎖している声帯の位置も上がるようなので、声道共鳴は上がり気味になる理由のようです。  西洋発声法の本には、高い声を出すときは声帯を押し下げるとか、あたかも声帯の位置が随意で変えられうようなことがかいてるのがありますが、そう簡単には同意できません。 声帯のコントロールは、反回神経という迷走神経の枝わかれですので、心臓や胃とか肛門とかいう胴体下部までをつかさどる内臓系不随意神経ですので、運動神経でもって上げ下げ出来る足や腕とは全然違います。 下の話になって恐縮ですが、肛門も、独自で開いたり閉じたりできず、腸からの圧力とか腹筋による圧力調整とかでしか開閉できないのと同じです。 声帯は、咽頭や肺の圧力は形態、開口具合などと連動して動きますが、単独では無理です。  周辺の力を抜いた状態で、ただ肛門を開閉できますかという命題が例です。 海などでうっかり海水を吸うと喉や声帯が閉塞してしまって声がでず、助けをよべない状態になることがありますが、冷静に時間をおいて、自然に緩和するまで待つしかないのも、制御神経系が運動神経系ではないことによる生理現象です。 声帯の生物学上の重要な機能は、声を出すことではなく、肺に海水や異物が落ちないために気道を閉塞することなのです。 空気を吸う場合は、自動的に(反射的に)意識せずとも寝ていても、声帯は開いたままです。 一方で、腸からの圧力が正常な状態で意識がなければ肛門は閉まったままですね。 すなわち、声帯のデフォルト位置は、”開く”で、その反対側にある肛門は、デフォルト位置が”閉じる”です。 先ほどの海でのできごとなど、緊急事態になると別の反射が起き、これまた意思では動かないわけで、静まるしかないわけです。 ですので、声を出すことは、生理学的な不随意反射で支配されており、体育が得意かどうかとは関係はありません。 また、声は、息を吐く、すなわち”捨てる”空気を、無理して利用する行為ですが、体育では、吸うほうが大事ですね。 全く逆と考えてください。 発声の場合、声門閉鎖という気道閉塞機能を使いますので、この機能に問題があると息もれがおき、いわゆるハスキーになって歌や発話に問題が起きるだけではなく、肺に異物や雑菌が落ちて肺炎などの病気になりやすくなりますので、医学生理学上も重要な機能であることが理解できると思います。 場合によれば、歌とかの趣味の問題ではなく、治療が必要な疾患にもなります。

  話はかなり脱線してしまいましたが、声帯には声帯幹細胞というiPS細胞みたいな万能細胞があり、声帯の損傷や磨耗を速やかに修復する機能があります。 その一方で、人体組織・器官の中ではもっとも癌になりにくい部位でもあり、その生物学的機能の進化の重要性を物語っているわけです。 個人差はありますが、声道共鳴長と胸郭共鳴長が1:2に近い身体的関係にあるのは、もともとは気管閉鎖器官であった声帯が、音(声)を効率よく出すために進化した生命の摂理なのでしょう。 こういった身体的常数が、その個人の声質の基本、例えば共鳴点をつくるわけで、訓練しても変えることが難しい部分です。それが個性であり、有名歌手の声を真似るのは、決して得策ではないようです。

  最後に、この章の課題である進化論的考察を加えておきます。 このような歌唱の共鳴空間の形成の要素のうち、まずは口頭の開口と喉頭の空間の人間特有の進化・形成があります。 それは、本来、種々の形をした、あるいは異型の食物塊を安全に食道へと送るために口の開口のほうが大きいラッパ状の構造であるべきで、実際他の哺乳動物ではそうなってますね。 そして、喉の奥や口腔の形状は、食物を砕いたり変形させたりするために、いろんな形に変化できるように進化してきました。 口の形も横にひろがり隙間の多い構造が一般的ですね。 ところが、口が密閉できる上に、開口と咽頭の大きさの関係が、人間では逆になってしまって、食物が喉につかえても容易には吐き出せない形です。 ところが、これは、逆に喉頭から口腔にかけての共鳴空間を手にいれたわけです。 そこで、その空間の形状を千変万化させれば、喉頭の下端の声帯が振動して発するパルス音源を、いろんな形、すなわち倍音構成を作り出すことができるのです。 母音や音階を変えるためには、食物や液体を飲食するのと同じ機能を使っているわけです。 犬は人間の言葉をかなり理解できるのに、すなわち聴覚は精密なのに、なぜしゃべれないのかは、あの横まで広がった開口の大きさが故です。 食べ物を摂るときには威力を発揮するようにしかできていないのです。 こういった新機能の獲得には、すでに確立している機能を転用する現象は、生物の進化一般に広くみられる現象です。 次の要素は、肺の容積と機能です。 大きな脳の酸素消費を支えるためと、行動の必要性から、陸上生活動物であっても運動量の割りに肺の容積が大きくなりかつ息を長時間止めることができるという機能の発達です。 この肺の容積は共鳴空間の確保に役立ちますし、空気中で息を止める能力は、声帯への圧力確保と空気流の調整に威力を発揮するというわけです。 また、この章の冒頭に述べたように、人間の完全な2本足歩行能力の獲得により、こういった内転的圧力・流量調整が全身を使って安定にできるということも重要な因子です。 ブロック塀の上にたちさらに大きなものを持ってバランスをとって普通に歩けるのは人間しかできないぐらい、姿勢の安定性とその復元力に優れています。 足の幅と重心を考慮すれば、猫など到底およびもつかない能力です。 これにより安定した一定周波数の発声あるいは躍動した音階的発声を長時間にわたり、全身の力を込めてあるいは全神経を集中して繰り返し行うことができるわけです。 鳥では、”鳴菅”という鳴くための器官が進化していますが、人間の場合は歌うことだけを主に担う特別な器官を発達させたわけではなく、聴覚の分析能力も含め、ほとんどが既存の機能や能力の転用であるといえます。 直立2足歩行以外では唯ーといえるほど、特有の進化的獲得機能は、男性の声変わりで、これは繫殖機能と密接な関係があり、基本的機能は成熟した男女の識別で、その結果特別な性質が男声に現れるのです。 

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    2.  第2章 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について
    3. 第3章 男声の特質ーその2: 和声とビブラートについて
    4. 第4章 男声歌唱のオーディオ再生について
    5.  第5章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点
    6. 第6章-歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察
    7. 第7章 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係
    8. 第8章 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その3:最大音量
    9.  第9章 男声の特質ー低音限界発声について
    10.  第10章ー最大音量とスペクトルの歌唱言語による違い
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    12.  第12章 身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析
    13.  第13章 声帯振動と非声帯振動の比較と歌声
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