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森の湯トップ  English Top 第一章(男声の特質)  歌集トップ  レコーディング方法  森の音響空間
男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章

音程と倍数波ーその1:歌声の量子化 ーその2:音階との和合性と不和合性
   その3: ベートーベンのトリック  その4: 量子化と声量の関係 男性の超低音発声における量子数      


”第8章の”男声アカペラ(独唱)録音における留意点-その3:最大音量”についての稿で、図ー6に第九第四楽章冒頭の男声ソロに与えられた役割について少し述べました。 この中で、AとC#とEの音が重要な意味を持つといいました。 そのデーターを再掲して、さらに検証を進めてみます。 まずは図ー6の復習です。

  
第8章の図ー6  第九第4楽章冒頭の響きー音源 (MP3  FLAC 192kHz 24bits 2.82Mb)
ベートーベン作曲交響曲第九番合唱の冒頭のバス/バリトンソロのサウンドスペクトル解析と音階が示す身体共鳴の利用図ー6は、有名なベートーベン作曲交響曲第九番第4楽章の合唱の始まりの前のバス/バリトンソロによるリーディングの冒頭出だしです。 転調のあるややこしい音階のようですが、男声歌唱を分析すると、まさにこのサイトで解説してきたことが凝縮しています。 まずA3 220Hzで叫び開始ですが、意外と声量は伸びません。せいぜい100dBです。 それは男声の共鳴点外だからです。代わりに倍数波が多く、声帯の振動エネルギーが分散して重層的和音が形成されています。 さて、次にその3倍波=660Hzのラインに着目してください。 装飾音符のA3でFrの子音発生とともに"o・・・”と母音がずり上げて発声されますが、それがE4に達して共鳴の法則により見事振幅増幅に成功!です。するどいビブラートとともに楽に110dBに到達です。 そして、あたかも3倍波をそのまま使ったのごとく、2倍波に”化けて”いますね。声帯振動からいうと、該当範囲を振動量子数3を2にしただけなので、簡単なのです。 すなわちA3の発声中に自分の3倍波を聞いておいて、それにめがけて、次のE4(330Hz)を発声すれば、A3の3倍波の660HzとE4の2倍波660Hzが一致するわけです。 
   はじめのA3では、声道共鳴のVDR1はD#7ですが、E4に共鳴してからは、半音あがってE7になります。 なんとなく半音上がったっぽく聴こえるのはそのせいかもしれません。 そのあと、そのあたりの共鳴領域を(E4-C#4)遊弋してから、G3にダブル子音(..n.d..)をはさんで降下し、振動を緩和して声帯の熱をさますというわけです。  そして、男声におけるこのA3とD4とEと転調C#4の親和性のよさ、そこれが、なぜ、あの交響曲がニ短調で作曲されたかという根源的理由でもあるのです。 この音源記録は、響きゼロに近い防音室なのでダンピングの利いた身体の響きしか聞こえませんが、ホールだとこの強い共鳴性ビブラートが、それなりに豪華に響くというわけです。 これを邪魔しないために器楽は静かにして、ソリストの自由にさせているのです! ですから、やっぱりリミッターなどかけて録音したらだめですね。  ベートーベンも声楽ではなく発声科学と音響物理学の専門家だったということです。 

 図ー1 喜びの歌全体のリアルタイムサウンドスペクトル   音源ファイル(MP3, HiRes FLAC
喜びの歌(ベートーベン作曲交響曲第九番合唱)バス/バリトンソロのサウンドスペクトル解析と音階が示す身体共鳴の利用
左の図は、図-6の冒頭の後のリーディングが終わったあとに、歌いだす有名な喜びの歌で、ここでの歌唱時間は38秒で, 音程を明確にすることもあって伴奏にせかされることなくゆったり歌っています。発声開始から27秒後にA2に転移します。 この部には女声も他の男声も参加させていません。  理由は男声ソリストの声道共鳴と胸郭共鳴音階にあります。 このバスソロが歌われるオクターブA2-A3は、男性の胸郭共鳴の下側にあり、その2倍波以上が、C5-E5付近の共鳴に響きます。  他の声部がありますと、平均化され不明瞭になりますので、この味は男性の低声部ソロでないと出ません。  このA2音 (109Hz)の基本波下側を赤米印で示しています。
 この部分の冒頭(Freude! Freude, ....)を含む通常の速度の歌唱は次に掲載しました(MP3, FLAC)。 説明は図-4です。



 図ー2 喜びの歌後半部のA2音の拡大図   
喜びの歌(ベートーベン作曲交響曲第九番合唱)バス/バリトンソロのサウンドスペクトル解析と音階が示す身体共鳴の利用
  細かい音階ごとの解説はさておいて、重要な部分一箇所についてここで説明します。 この一連の音の動きの中でもっとも重要なのが、この突然下がるA2の音です。 なぜ、その前のE3からA2に落とし、続いてF#3に戻したのか? この疑問に答えるのが、左の図-2です。 音階波は、A2の110Hz(実測109Hz+1Hz)ですが、例のごとく5倍波と6倍波が最強になります。 で、その5倍波551Hzと6倍波667Hzが、C#5とE5に当たり、これらはまさに第4楽章のテーマ音階ですね。 下げたはずが、実はピッチは下がっていないのです。 冒頭では、図-6のごとく、A3 (220Hz)が3倍波の660Hzに、E4が2倍波の660Hzに、響きます。 これは決して偶然の一致ではなく、ベートーベンの意図であると考えるべきです。 ですから、喜びの歌のこのA2はしっかり歌わないといけない音なのです。 個人差はありますが、BR1は幅が広いのと成人男性の身体サイズからいうと、中心値が600-700Hzくらいの範囲のはずですから、共通だと考えていいと思います。 この場合は、VDR1はあまり関係はないようです。


 図-3. プロステージでの喜びの歌後半部のA2音の拡大図   
喜びの歌(ベートーベン作曲交響曲第九番合唱)バス/バリトンソロのサウンドスペクトル解析と音階が示す身体共鳴の利用
  上の図-3にプロのバス歌手による”喜びの歌”の実際のステージでの歌唱の、図2に該当する部分を同様に抜き出しサウンドスペクトルを表示しまたその周波数分布を右に示しました。 伴奏とホールの響きが入ってわかりにくいですが、声の周波数分布は完全といっていいくらい一致していることがわかります。  ちなみに、発声基本波は109Hz+1Hz, A2; 2倍波226Hz, A3; 5倍波556Hz, C#5; 6倍波666Hz、E5です。 "+1Hz"は、ディジタルビットの幅(誤差)です。 
  歌を聴いているとあっというまに通り過ぎてしまいますが、このような分析からこのソリストの方も、このA2を大事に歌っていることがわかると思います。   当該演奏の全曲のMP3はこちらにあります(1979年、外山雄三指揮大フィル他)

図ー4.  喜びの歌主要部の全体像  原音:MP3 Flac
喜びの歌(ベートーベン作曲交響曲第九番合唱)バス/バリトンソロのサウンドスペクトル解析と音階が示す身体共鳴の利用
  そのあと本文に入り、オケの伴奏(弦中心)で、"Freude schoner Getterfunken......"と語りが始まる構成になっています。 ギターの語りの原理ですね。 ちなみに、出だしのE4(329Hz)が最大110dBで最後のD3が96dB、途中のA2が80dBですが、響きのない防音室の録音であっても、身体共鳴により増強されて聞こえると思います。 音階の刻みごとに規則的なヒゲのようなスパイクがでています。 プロは、図-3にあるように、弦のピッチカートとホールの残響をバックにもっぱらスタッカート気味で歌うのですが、ここでは、弦のピッチカートの伴奏がないのと防音室のためとぎれとぎれになるのを防ぐため、母音を連続発声して身体共鳴で響かせながら子音とともに音階移動時に声帯破擦音を出してまかなっている結果です。 全体としては、声洞共鳴(中心値2700Hz)の近傍の2000Hzと4000Hz近辺に声帯の梨状陥没の作用による共鳴抑圧帯が通して観察されることと、音程のいかんにかかわらず、600Hz近辺の胸郭共鳴(BR1)による共鳴増幅帯が観察されます。 共鳴抑圧帯には、過剰な倍音の積み重なりの防止と4000Hz付近の高音カットにより声洞共鳴を際立たせるとともに和声の濁りを防ぐという大事な機能があるのもわかると思います。

  ついでに、このあとの4元和声(バス・テノール/アルト・ソプラノ)の合唱とソロ4重唱などのあと、歌われるテナーのソロと聞き比べると面白いかもしれません。 同一人物の歌唱です(MP3 HiRes)。 出だしは同じ共鳴帯( (D4)での似た韻での呼びかけですので発声レベルはほぼ同じですが、次が2音階上がってF4でやや共鳴からはずれ発声強度が少し下がりますが響きは逆に高くなり、そのままオクターブ下へ跳躍して本文が始まり以後、BR1の共鳴領域および声洞共鳴VDR1の支配の強い領域を飛びならが遊弋するため、声量や響きのレベルが喜びの歌の本文とくらべて、全体に大きい状態が自然に維持され、元気のよい歌の印象になります。 最後のA#4(473Hz実測)は極めて大事な音階で、6個の量子数をもつ強く勢いのある声洞共鳴、F#7(2820Hz)を聞くことができます。 伴奏がないので、その点を強調できるので、わざとそこにゆっくり1.5秒間ほど留まり、オクターブ下の次のA#3で沈静するのを強調する歌唱にしています。 同時にホイッスルを吹いているようなものです。
  いずれにしても、この2つのパートを同じ歌手が歌うのを聞くのはめずらしいことだと思います。 それだけに同一の身体的条件において、共鳴点からの距離とそれらの相互作用で声質と声量がどう変わるかの直接比較ための貴重な実験でもあるわけです。
 
図-5 第九テナー行進曲の共鳴振幅と量子化  音源:(MP3 HiRes)
 縦軸スケールは図-4と同じですが、歌唱区間の幅は100秒で、図ー4の37秒よりも3倍近く長いです。第九のテナー独唱行進曲のサウンドスペクトル的全体像ー声量振幅と身体共鳴、声洞(声道)共鳴および胸郭共鳴を中心とした比較
第九のテナー独唱行進曲のサウンドスペクトルの全体像ー声量振幅と身体共鳴、声洞(声道)共鳴および胸郭共鳴を中心とした比較上の振幅図のリアルタイムサウンドスペクトルです。 終わりのA#4でのホイッスルの役割をもつVDR1の一本(2833Hz F7)が強くでています。 続く末尾の1オクターブ下がったB3では、VDR1は沈静化して、声も沈静化します。 このように、オクターブ変わると量子化が異なり、その結果表現性も変わってくるので、同じ音というわけにはいきません。

 終わりのA#4の部分の周波数解析結果です。 このように、声洞共鳴VDR1(2833Hz F7)が基本波を超えるピークとなり、基本波、2倍、3倍、6倍とならぶ大きさで量子化も顕著で和声が強いことがわかります。 また、韻が”Sie...=イ"なので、VDR2(5206Hz E8)も立ち上がって”賑やかな”響きといえるでしょう。最後の男声A#4のスペクトル的性質ー第九のテナー独唱行進曲のサウンドスペクトル的全体像ー声量振幅と身体共鳴、声洞(声道)共鳴および胸郭共鳴を中心とした比較

このA#4の発声波形です。 母音”い”の系統の量子化波形で、6個の明瞭な安定した分割がみられます。  最後の男声A#4のスペクトル的性質ー第九のテナー独唱行進曲のサウンドスペクトル的全体像ー声量振幅と身体共鳴、声洞(声道)共鳴および胸郭共鳴を中心とした比較

以上のように、ベートーベンの楽譜に込められた”トリック”の解明進めてきましたが、今までバスとかバリトンとかテナーとかの声区にこだわらず、同一の歌手による男声の響きという観点で(同じ身体条件で)歌声とその量子化だけに着目解析していくと、非常に合理的に構成されていることがわかったと思います。 好み、あるいは得て不得手はあるものの、男声のこれら3つの声区は、実は便宜的なものでなのだということが結論です。

 図-6 第九バス/バリトン独唱とテナー行進曲独唱の結合図 音源:(MP3 HiRes)
サウンドスペクトルー第九喜びの歌とテノール行進曲 ドイツ語歌詞 In German Freude and Wie Seine Sonnen比較のために図-4の冒頭の詠唱を含む喜びの歌と中盤のテノール行進曲独唱を結合したサウンドスペクトルで、合計時間は2分21秒です。 この結合した音源も展示してあります。

Windows media playerの視覚エフェクト(大火炎)ー音源のリアルタイムサウンドスペクトルの表示
参考: ウインドウズ・メディアプレーヤーの”大火炎:音源のリアルタイムサウンドスペクトルに基づいた視覚エフェクトの動画です。

場所: 上端バーの右クリックで表示されるメニューの”視覚エフェクト”の”バーとウエーブ”の中にある”大火災”です。

資料室  

      超低音男声の発する可聴周波数以下の超低音は聴こえるのか?
      超低音共鳴男性の超低音発声における周波数解析パターンと身体共鳴の遷移転換
      極低音の共鳴男性の発する低音から可聴周波数以下の極低音の共鳴構造
      男性の声区声区よさらば!ー男性歌声の自然な声量とオクターブおよび男性声区との関係
      量子化現象男性の歌声の量子化現象についてー音程と倍数波ーその1
      量子化現象2男性の発声の量子化現象についてー音程と倍数波ーベートーベンのトリック
      歌声と話し声歌声と話し声ーその1-歌声はどこに響いて発生するのかー声洞共鳴の存在について
      声道と声洞声道と声洞はどう違うのか?
      音程と倍数波音程と倍数波ーその2: 音階と倍数波との和合性と不和合性
      音楽PTSD音階に関する議論での不足点と音楽PTSDとベートーベンの感性

  1. 録音方法   歌集のレコーディング(録音)方法について  男声アカペラ歌唱再生に適した機器
  2. 男声の特質シリーズ
    男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声のサウンドスペクトラム的特質について
    男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について
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