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森の湯トップ  English Top 第一章(男声の特質)  歌集トップ  レコーディング方法  森の音響空間
男声の特質シリーズ第(男声のサウンドスペクトラム的特質について 男声の特質ーその1; ビブラートの性質と倍数波による重層的和音と現代音階の不協和音について その2: 和声とビブラートについて 男声歌唱のオーディオ再生について 男声歌唱のレコーディングにおける留意点 歌唱発声における物理的・身体的要因-進化論的考察 音階移動速度と身体の共鳴空間および部屋の残響時間の関係 男声歌唱のレコーディングにおける留意点-その2:最大音量 男性の低音限界発声について 男性の最大声量とスペクトルの歌唱言語による違い 11 男性の身体共鳴周波数と共振支配による発声波形の量子化と声量の関係の解析   声帯振動と非声帯振動の比較と歌声 男性の超広帯域発声ーバスとテノール声区の連結 バスとテノール連結声区の声洞の物理サイズの計算)章

音程と倍数波 その1:歌声の量子化 ーその2:音階との和合性と不和合性ー その3: ベートーベンのトリック-1 その4: 量子化と声量の関係  男性の超低音発声における量子数

   西洋音階の理論と実践は、芸術性や器楽技術の観点から音楽家を中心に行われていますが、ここではそのような既存の概念から全く離れて、生物が出す声(音源)としての観点からのみ西洋音階のいわゆる”平均律と自然音階”との整合性を論じてみます。 とはいっても、この観点からでは”平均律”も”自然音階”も、同義であり、区別する必要はこの段階ではないものとして扱います。 そもそも、人間の自然な歌声にはそれらの既存概念の音階差をはるかに超える周波数ビブラートがかかっているため、そもそもビブラート平均で考える必要があるということもあります。 周波数ビブラートとは、発声周波数が声帯振動の揺れによって上下する現象といわれ、動物一般では普通にみられる現象で、典型的には、馬や鹿の”いななき”であり、生物としての生理学的現象です。 他にも、鳥や虫の声などにもひろくみられます。 以下の図ー1と図ー2には、実音の音源ファイルをつけておきます。 特に図ー2においては、人間の”いななき”とはどんなものかご鑑賞がてら、考えていただければ幸いです。


 図-1.  相対音階における倍数波の不和合性  この区間の音源MP3
 相対音階のドミソにおける”ソ”の不和合性を図-1に示しました。 右側のブロックが、C3(133Hz)スタートした相対音階ドミソドの発声のリアルタイムサウンドスペクトルです。 C3->E3->G3->C4 (266Hz)の移動です。 水平方向すなわち周波数ベクトルの倍数波の倍数性の整合を見ていただければ、C3とE3は4倍波と3倍波が一致し、E3とC4は3倍波と2倍波が合致することがわかりますね。 これを、とりあえず”音階同士の倍数波の和合性”と表現しておきましょう。 次にG3を見てください。主要な倍数波のどれとも整合しない、すなわち、和合性の逆の意味の”不和合性”音階移動としましょう。 実は、”ソ(G3)”の4倍波{784Hz"が、”ド(C4)”の3倍波と合致するので, (ド-ミとソ-ドで)不連続的に和合が発生しているわけですが、この784Hzのピーク成分は弱いため、"ラ”と比較すると、違いがはっきりするわけです。 相対音階では、ソ-ドの関係はド-ファの関係ですね。  













   次に右のブロックで、出発点は左と同じC3(133Hz)ですが、ドミラド(C3->E3->A3->C4)と移動してみます。 すると、C3の5倍波とE3の4倍波とA3(ラ)の3倍波が一致します。 では、A3とC4の間はどうでしょうか。 これは、A3の5倍波とC4の4倍波が一致し、この2つの音階同士でも倍数波の和合性が認められます。 C3とA3に和合性があったのだから、そのオクターブ上のC4とA3に和合性があるのは当然のことといえます。 これらの4つの音階間を通して倍数波の和合性があることがわかります。 ド-ファ-ラ-ドでも同様に和合性がりますね。  我々は、”厳しい”音楽教育のせいでドミソを基本として教え込まれそう信じてきましたが、このように”ソ”の音は、古代、いや生物の進化の過程を通して変わることなく我々が発する自然現象とは相容れないものであるといえます。 西洋音階の平均律と自然音階の両方の”ソ”はオクターブを分断する完全なる人工的パラメータであって、”自然”のハーモニーではないことがわかります。 西洋音階でいう自然音階は、平均律の無理数を微調整したに過ぎないもので、物理学でいうととうてい”自然”とは呼べない修正パラメーターと考えたほうがいいですね。 特にこの測定では残響が無視できる部屋ですので、音の重なりは生じないので、どちらでもそれほど問題はないですが、実際のホールなどでは重なりがおきて音が濁るでしょうから、スタッカート的あるいはドイツ語のような重厚な子音で挟まれた言語なんかのうほうが響きがいいということになるのでしょう。 そういったことが、西洋音階の芸術性であるとともに、変わらぬ生物としての営みを考えると構造的欠陥でもあるのです。 なぜなら、我々の発声の中で、ここで示した倍数波の位置を、訓練によって”ソ”に和合するようにハーモニーを変えることは不可能だからです。 ただし、どうしてもやりたければ、ひとつだけ方法があります。 それは、”ソ”の音に対する不和合性の原因となる3倍波以上を抑圧する発声法、すなわち正弦波発声に近い発声法をとることです。 それは、男性にとっては高音域かあるいは裏声であり、女性にとっては”ソプラノ”であるわけです。  秋の虫の声にも、そのような単一周波数に近い音源です。 しかし、そのような音源の持つ最大の欠陥は、人間の得意とする言語表現を犠牲にします。 なぜなら、ここで示した人間が発する広範囲に分布する倍数波は、言語の発音やその豊かさを構成する物理要素であるからです。

  その言語表現力についての倍数波の役割りについては、別章で詳しく述べますが、以下に簡単に説明しておきます。 


 図ー2  高音と低音発声における倍数波と声質の関係

 この区間の音源MP3
 

上の図、左(Side A)と右のブロック(Side B)は、同一人物が665Hz付近のE5(左)と250Hz付近のB3で、日本語母音の”あいうえお”を、それぞれ同じ基本波周波数ベースで発声したときのサウンドスペクトルです。 平均の発声周波数のずれは、数ヘルツ以下です。 どちらのケースも、2-3回繰り返しており、いずれも母音は識別できます。 E5のケースから分析すると、おそらく最低2本必要だろうということです。 E5では胸郭共鳴BR1と一致し強い共鳴音が基本波に出るわけです。 B3のケース(右)では、4本プラス1本ですが、一番下のB3の基本波は、どれも同じような感じですので本質的ではなく、これもおそらく2-3本の組み合わせだろうと思われます。
  どちらも、声道共鳴と胸郭共鳴によって量子化された波長を使っていますので、裏声ではなく、表の歌声です。 また、声帯の構造上からくる2000Hz付近の倍数波抑圧も両方のケースで明瞭に読み取れます。

  日本語では、5つの母音が基本ですので解析が単純で、理論的にも最低2本の強弱が必要と思われます。 E5のケース(665付近)では、1,2,4倍波で4倍波が声道共鳴VDR1で、1倍波が665Hzの胸郭共鳴で、この2つの間に挟まれた倍数波が母音の発音の主役とみられます。 声量も110dB前後あります。 右のB3(250Hz)では、2倍波と3倍波が胸郭共鳴の両端(共鳴が小さい)で、10倍波あたりが声道共鳴となっており、母音の種類によっては、5倍波や6倍波が使われています。 胸郭共鳴からはずれ気味で声量は100dBほどで小さいですが周波数分布が広く特にB4-F5とD#7付近を中心に重厚ですので、母音の認識度合いとしては同じような強さ(透りがいい)に聴こえるようです。 その一方で他の音源とは和合しにくく、それと比べると左の高音での母音発声は周波数分布が狭く単純で、表現力は別にして他の音と和合しやすいことがうかがい知れます。 少なくとも、E5での発声は男声としての性質はほぼ失われています。 詳しい説明は別章に譲ります。

図-3  広帯域の和合性の概観

     音源ファイル(MP3  ハイレゾFLAC

 まずA2から開始し、音程を少しずつ変えながら、段階的に上下を4回くりかえし(一回10秒程度)、最後はG2で終了した実験のリアルタイム振幅(A:115dBフルスケール)とリアルタイムサウンドスペクトル(B:10-30,000Hz)を示しました。 開始と終了の音階ならびに最大振幅の音階を表Aに表示してあります。"br"は息継ぎを示します。 図-3Bの右端に、第1胸郭共鳴(BR1:約660Hz)、第1声道共鳴(VDR1:約2700Hz)と第2声道共鳴(VDR2:約5400Hz)を示してあります。 これらの共鳴値はいずれも中心値です。

この図の詳しい解析は、別章に譲るとして、このような伴奏なしの残響の影響のほとんどない環境での自由音階移動では、声道共鳴や胸郭共鳴などの身体共鳴の影響が声量変化や倍数波およびその強度に強くでているのがわかります。 1倍波や2倍波、あるいは3倍波などの倍数波が、BR1に当たる音階で共鳴による声量増大があるのがわかるとともに、倍数波の強度が最大に達しています。 D5およびD#5では、音階波である1倍波(基本波)がそれに当たるためその基本音階の強度が高く、音階と一致しています。 これらの中で、2番目のD3に始まる音階移動に注目して下さい。 このトライアルでは、D3->G3->D4->D5-と上昇していきますが、D3(147Hz実測)では4倍波(D4: 実測588Hz)とG3(実測196Hz)の3倍波(D4: 実測平均588Hz)とがぴたり一致しているのがわかるかと思います。 なお、G3の3倍波は、ビブラートが強いでので(実測573Hz-603Hz)その平均を取ると588HzというぴたりD4と一致します(図-4)。  その部分を大きく拡大したのが、次の図-4のリアルタイムサウンドスペクトルです。 ビブラートの平均をとれば文句なしの一致(誤差1Hz以内)であることがわかると思います。 また、声道共鳴の連続性まで見ると”レソシド(D3-G3-B3-D4)”も和合性が高いことがわかります。


図-4 広帯域音階のステップ移動における和合性

 これは、図-3での音階のステップ移動の中から、声洞共鳴と胸郭共鳴の音階移動での位置を表す典型的な部分を抜き出して拡大した図です。 正確にD3(147Hz)で始まってステップ移動している点に注目して下さい。

VDR1:第1声道共鳴; BR1:第1胸郭共鳴;
音階移動: 
 D3: 147Hz "レ"→G3: 196Hz→"ソ”→B3: 248Hz ”シ”
音階周波数は実測(ビブラート平均)

  いくつかの音階の段階移動を試みた図-3の中から抜粋した図-4の部分を見て、思い当たる曲があります。 早春賦の出だしです。 相対音階では”ソドミソド*”ですが、このサイトに掲示してある早春賦(mp3 or HiRes flac)は、実はこの音階なのです:D3→G3→B3→D4→G4。 なぜかというと、歌手の胸郭共鳴により出だしがD3である場合がもっともよく響くからなのです。 一方でG4は倍数波が胸郭共鳴周波数からはずれ、声道共鳴周波数による量子化の影響を強く受け始めるため、声量は落ちますが自然に音が広がります。 できれば、ウインドウズのMedia Playerの動画のなかにある”大火炎”を表示させて聞くとわかりますが、倍数波の位置がほとんど動かず高さや出現が変わるパターンが多いことがわかります。 もし、C3やG2,G3でスタートするソルフェージュですと、全然違った感じになります。 小学校では、多分G3のソからはじまるハ長調だったと思います。子供と女性の先生に合った音階移動です。 男性では、共鳴域の関係から非常に歌いにくい音域です。 男声に適したこの曲の調は、例えばD3で始まる場合は、ト長調、C3で始まる場合はへ長調です(C#3やD#3もOK)。 このあたりの選択が、歌手の身体的パラメーターを反映した重要な個性のひとつで、伴奏抜きで何回か歌っていると最適な調に落ち着くことが多いですね。 D3で始まる場合は、ピアノの黒鍵は最後まで使わなくていい不思議な曲であるとともに、倍数波との和合性が高く、作曲者の意図だったのかもしれませんね。 名曲を多数残した作曲家の感性なのだと思います。 このように、歌曲の場合、その調の選択は歌手の共鳴点や歌唱領域内での和合性を勘案して決めるべきなのです。 作曲家の原譜において、このD3やC3、C#3を基点とすることは、ここぞというときに良くみかけます。 ベートーベンの第九なんかにもありますね。 単にソルフェージュ(相対音階:ドレミファソラシド)で読んだらいいというものではありません。 音階のオクターブあるいは絶対位置が変わると共鳴との関係ががらっと変わります。 特に男声においては、声変わりを経て共鳴の強い声を出す”別生物”になっていますから、その観点は特に重要で、共鳴点というい固定点が厳然として存在する以上、物理的な音階、すなわち絶対音階は無視できないのです。 


参考: ウインドウズ・メディアプレーヤーの”大火炎:音源のリアルタイムサウンドスペクトルに基づいた視覚エフェクトの動画です。

場所: 上端バーの右クリックで表示されるメニューの”視覚エフェクト”の”バーとウエーブ”の中にある”大火災”です。


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