Page Top      森の湯トップ  解説一覧(資料室)  2015/11/21 20:06:54

音階構成の再認識と偉大な作曲家の音階観

 西洋音階の体系化は、まず平均律の発明といわれる。 その後、自然音階というものを導入して器楽的実音階との和音の整合性をはかる修正が行われた。 しかし、この”自然音階”とは、誤解を生む名称である。 中身は、要するにピアノなどの新時代の楽器をベースに5倍波までの和声を考慮したにすぎない微修正なのだ。 実際、違うでしょといわれても一般人には聞き分け不可能といってよい、”音楽家の特権”のようなものだ。 実は、これは物理の振動理論から、弦などの共鳴は5倍波までといわれたことが原因である。 この理論がある意味、もっと大事な人間の声の和声を置き去りにしてしまい、器楽の都合による体系を作ってしまった原因のひとつであるといって過言ではない。 動物一般だが、人間に限っても、現代人の成立から何万年たってもおそらく変わっていない人類普遍の生物としての固有の属性が置き去りにされてしまったのである。 本来、理論的であるはずの音楽理論の非論理性である。 
  
  音楽PTSDと言ったのは、まずピアノなどの楽器を習った方が楽器の演奏を嫌いになるというケースであります。 次に、先生や友人から”音痴”と言われて歌うことを嫌いになったケースもありますね。 それが、結構多い。 その結果、楽器の演奏や”歌ができる人”が敬われ、 聴く人と演奏する人の間、だけでなく音楽を教え訓練する側と学ぶあるいは訓練を受ける人たちとの間の支配関係が固定するようになります。  これはエンターテイメントとして見た場合は問題にはなりません。 しかし、芸術として見た場合、この構図はあきらかにおかしい。 芸術とは特権階級の独占物ではないはずで、本来自由であるはずの芸術にそんな支配構造が許されるのか?という人間の尊厳の根幹に関わる重大問題といえます。  意外に思われるかも知れませんが、著名な作曲家の趣向に実はこの和声の根幹的問題の認識があるのです。 ベートーベンの第九やシューベルトの歌集などにそれを見出すことができます。 ここで紹介する物理学的基礎を理解すれば、それが見えてくるのです。 例えば、ベートーベンの第九の第4楽章で、吹管による誘導のあと、男声バスソロがA3のアカペラで始まり、”暇そうな”オーケストラを尻目に続き、やがて男声合唱(+アルト)を誘導しますが、この合唱が、低めの音域での隣接音階の移動を主としたバス・テノールの不思議なユニゾンです。 男声の最低音階はA2です。 ただし、テノールでは、一部一オクターブ上がる位置に移っている音があり最低音階のA2はA3に移っていますが 変わってると思いませんか。しかし、この領域のオクターブ上がりは、男声では倍数波の響きは胸郭共鳴点ですので同じで(同義)、自然に発声する限り簡単に上下しますから、そうむずかしい跳躍音域ではありません。 喜びの歌最後のD4は、2倍波が男声の共鳴点付近に当たる音響で最大声量がでやすいです。 男声のA4付近は、倍音としては、(1、2,6が並ぶ)他のパートや大抵の楽器をしのぐホイッスルに似た強い声道の響(第3章 図ー13)きが声道共鳴領域VDR1(E7:6、あるいはC7-F#7:5−7)にでるためこの音は、後半のオーケストラとの大合奏のときにでてきます。  シューベルトの主要歌曲集も男声の特質をよく踏まえた構成になっています。 以下の分析を理解すれば、なぜかその理由の端緒がわかってくると思います。

男声低音の波形と倍数波構成

次の図ー1に、男声第一オクターブの基準音階A1での発声の波形をAに、その倍音構成をBに示しました。 ここで、注目すべきは、6倍波以上の構成で、そのうち第11倍波612Hzが最大であることです。 この波形Aを見ると、大きな繰り返しは0.08秒=55.6Hzですが、さらに細かな波形から成り立っていることがわかります。 この細かな波形の周期がざっと11倍、すなわち1/11の時間に当たります。 見方によっては、13-15倍にも見えます。 周波数としては、少なくとも、612Hz の信号として扱う必要があるとともに、和声構成では、A1ではなく、”全く違う”音階のD#5としても扱う必要があるというわけです。 また、聴覚補正でいうと、600Hz以下は急激に聴覚感度が下がり、100Hz以下になると一桁近く下がります(騒音計A特性参照)から、実音は自身も含めて他人にはほとんど聞こえていないと思われます。 下に示したこの図の音源ファイルで知覚されるのは、高次の倍数波とその再生された音のビート(隣接の差分=55.6Hz)で生じる仮想的低音と思われます。 ですから、男性は、このA1の発声を10倍波のC#5か11倍波のD#5に合わせるほうが合理的なのです。 ”音痴”とは、一体誰のことか?といいたくなります。 合唱のパートの和声を組む時もこのことは、根本的に重要です。  そのことを無視すると、本来の声でない”裏声”をだすよう要求されたりもします。 裏声だと、下のオクターブ表のように上のパートとあわせやすくなるわけです。  ちなみに裏声とは、声帯の部分振動による正弦波に近い音で、倍数波としては、せいぜい5倍まで、たいていは1倍か2倍波が断トツ最大なので、器楽にとってはよく適合しますが、アイデンティティーが消滅しますから、裏声を主にしてしまえば、歌唱の表現力が損なわれるわけです。器楽がボーカルを支配する、すなわち、器楽のために声を合わせさせられているというのであれば人権侵害の最たるもの、だから今の現状はPTSDだというわけです。ところで、男性のパルス的発声波形により、近くのピアノの弦が鳴ることがあるのです。逆に声で楽器をならすという音楽があれば、それが一番自然だということです。 コンピューターを使えばより簡単にできると思います。 ーそれはひょっとしたらベートーベンが言いたかったことなのかもしれない。  この図の次に、男声A1を基準としたオクターブ表をつけておきます。 A1以下の超低音の倍数波については、別章(1章第9章など)を参照下さい。

図ー1  男声低音における波形と倍数波構成

図ー1の音源ファイル(MP3)

開始点はC1で、すぐにA1に移動しています。
男性の極低音発声、A1 55Hzにおける波形と倍数波構成

この図で、A1が55.6Hz,で、以下、2倍、3倍・・・11倍となっています。 6倍波と8倍波の間の高いピークが7倍波です。 6、8,9倍波は弱いです。 20倍波くらいまで識別できますが、中央のピークの集団は、10-15倍波です。    

  次の表ー1にこれらの倍数波のオクターブおよび一部の既存音階との倍数関係をまとめてみました。 この表の見方は、歌おうとする、あるいは重ねようとする音階のオクターブ領域を第1から4までのどれかを仮に選ぶと、ベース音階の倍数波と奏でようとする声または楽器の倍数波との関係が横列で読み取れます。 既存の西洋音階にもっともよく一致する音階はAとEのみと考えていいと思います。 なお、5倍波(275Hz)の欄にC#4 (277Hz)がが記載されていますが、これも、275Hzに読み替えれば割り切れる”同義音”と考えていいと思います。実際、こういったスペクトル分析をしていると、実音を聞かなくてもある程度どんな音かわかるようになります。 基本的には、不協和音として循環しないように、相互に割り切れることが基本です。  第一オクターブのA1からは5倍、第2オクターブのA2からは、2.5倍で5の整数分の1で、割り切れる数ですので、これらの倍音同士では、不協和音としての循環がありません。  ベートーベン第九のバス(バリトン)ソロ出だしは、ちなみに、男声基本波でA3->E4(下表の第三オクターブ参照)で”同義音(主要倍数波に含まれる)”になります。 興味あることにベートーベンの楽譜にもこのC#4の記載が選択としてあるのです。 この倍音の倍数は変わりませんが、身体共鳴や強弱構成には個人差があるため、選択可能だと思います。 A4が五線譜中央の位置になります。 基本的には下から共鳴点をねらうことがが求められているようです(第六章後述) 続く”nichit these tone"は,、ズレのある音階領域で、以後、変音記号が次々とでてきます。   ベートーベンは、男声の和声の特質と個人差まで知り尽くして、物理学的にこの曲を作曲したということになりますね。 ベートーベンは、晩年は聴覚を(鉛中毒で?)失ったので、過去に培ったものを基にして論理的に作曲していたはず。 他の部分にも随所にみられますので、追って掲載していく予定です。

表ー1 オクターブ表

   倍数波(Harmonics)     倍数波(Harmonics) オクターブ
 音階名  周波数  第一   第2  第3  第4
 A1  55  1    
 A2 110  2 1    
 E3 165  3      
 A3 220  4 2  1  
 C#4  277  5 2.50   1.25  
E4 330  6 3.00  1.50  
     7      
 A4 440  8 4  2  1
   9      
 C#5 554  10 5.00    2.50  1.25
     11      
E5  660  12 6  3.00  1.50
     13      
     14      
     15      
 A5 880  16 8  4 2
     17      
     18      
     19      
 C#6  1108  20  10  5.00  2.50
     21      
     22      
     23      
E6  1320  24 12   6
     25      
     26      
     27      
     28      
     29      
     30      
     31      
 A6  1760  32  16  8 4

  次に、このオクターブ表の活用方法を、もう少し具体的に説明しましょう。 さきの第九の合唱ですが、バスソロのあとバス-テノールのユニゾンで、喜びの歌が始まります。 ソロによるリーディングがA2(110Hz)なので、オクターブ列第2を参照します。 喜びの歌の音域は、A2-A3で、主音がD3です。 ここで、D3は、男声の特質第3章や第6章に詳しく説明しているように、4倍波の587Hzが、基本波の2オクターブ上の男性の身体共鳴値の600Hz付近で共鳴を起こし発声の響きが高く強くなる領域に当たります。当然、幅がありC3-F3 あたりが該当します。 その上のA3(頂点)は共鳴点の間にあり、パルス状ビブラートを伴った力強い響きが広がる領域であり声道共鳴も高くなってきますので、なめらかさも加わり豊かな声になる領域です(ベートーベンのトリック)。 そこで、ベートーベンは、それを強調するため、その後の喜びの歌の合唱では和声は組まずユニゾンにしたと考えられます。 男声は、広い領域に渡ってユニゾンでも充分な重層和音を持っているからです。 特にこのA2-A3領域は濃いです。 もし、この音階移動で男声同士で和音をつくろうと音階をずらしたパートを重ねると、もともと重層的和声になっている男声パートの倍数波のぶつかりあいがおき、和声の透明度がさがり、”騒然”となるからだと考えられます。 もともと男声が持っている共鳴点(声洞(声道)、胸郭)を中心とした倍数波による自然ハーモニーの重層的和音の移動がここでは最適なのです。 パート間のバランスを取る必要もないわけです。また、第6章などに述べてあるように、人間の声はダンピングファクターが大きく、一音階から半音階の連続移動でも、残響による母音の重なりがありませんし、ホールの響きについては、ドイツ語で歌うことにより子音の発音による緩和時間があるので、これまた特に技巧をこらさなくても、スムーズな音階移動で前の音と重複して音が濁ることなくリズムが刻めるわけです。 男声の持つ響きの豊かな領域をたっぷり聞かせてくれるというわけです。 この領域ではバスやテノールなどの声区の違いは、倍数波の強度の構成のいくつかの違いであり、周波数ベースでは同じですから、この表のように、オクターブが同じであれば、何倍であろうと異なる男声区の倍数波は、強さの相対比は個性的であったとしても、それらの周波数はすべて重なり、ひとつの男声としてのスペクトルが合成され明るく力強く響くわけです。  強いていうなら、音をA2に落とし込んだ際にテナー声区では響きが急激に下がるところをバスが補うくらいでしょうか。

    また、このD3(近辺)といういう音は、練習曲のコンコーネ50番の、1番目の曲の出だし音でもありますが、人間の身体共鳴から考えると、男性にとっては、楽器がなくとも音程をとりやすく出しやすい音程でもあるわけです。  先ほどのバスソロの冒頭2音めのC#4の選択も、少し体格の大きい人なら、この4倍波の当たりに共鳴点がくるわけです。 このC#4も、上のオクターブ表にある基本倍数波列との整合性が極めてよくかつビブラートが強く響きのよい音階であり、それなりに合理性のあるものです。 男声との共演ならひとつの軸になる音程だと思います(ベートーベンのトリック)。 シューベルトの美しき水車小屋の娘”の第一曲目の後半にもこの付近の高さの音(D#4)への跳躍がありますが、やっぱり自然に響きと声量がでて、ちょっと立体感のようなものも加わります。 このように、歌唱する音階の物理的位置によって特徴づけられるということと、大作曲家といわる人たちは、こういった分析手段がなくても、ちゃんと把握していたということですね。

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